研究課題
これまでの研究で、腎癌細胞上のDSGb5糖鎖抗原を制御することで、NK細胞の細胞傷害活性が賦活することも確認した。しかし、臨床上は、腎腫瘍全体として、DSGb5糖鎖抗原の発現量が小さい場合は、NK細胞を賦活化させた効果が非常に限定的なものとなってしまうことが予想された。このように、腎細胞癌のDSGb5糖鎖抗原の定量という課題に直面した。そこで、質量分析器による試料中の糖鎖抗原の定量に着手した。DSGb5糖鎖は糖脂質であり、これに含まれるスフィンゴ糖脂質はセラミド部分の脂肪酸および糖鎖の配列部分に多様性を有する。抗体は糖鎖をエピトープとして認識するため、脂肪酸配列については不明である。こうした分子種を識別して精密に同定しつつ、定量的に解析する手法として液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法 (LC/MS/MS) を用いた。試行錯誤の結果、腎癌細胞株培養上清において、炭素数16から26までの異なる脂肪酸鎖8種を測定対象に設定するとことで、DSGb5糖鎖を理論値からほぼ定量できると推測された。しかし、定量測定には標準物質が不可欠であり、標品としてのDSGb5糖脂質を入手する必要があった。DSGb5糖鎖は7つの単糖より構成され、その生合成は複雑であり、現時点で市販されていないため、化学合成によりDSGb5糖鎖を生合成する実験系を構築した。現在、DSGb5 糖脂質の生合成に成功し、さらに、合成過程で中間生成物であるMSGb5糖鎖などいくつかの有用な糖脂質も合成することができた。以上により、DSGb5糖鎖が化学合成できるようになり、多くの試料および検体の定量測定が可能となっている。また、ファージデスプレイ法用いた、抗DSGb5 抗体の作成にも取り掛かっており、今後、患者検体を用いた臨床研究への応用が期待できる状況となりつつある。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
International Journal of Cancer
巻: 145 ページ: 484~493
10.1002/ijc.32115