研究課題
近年、免疫チェックポイント阻害剤やがん抗原特異的TCRまたはキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子導入T細胞を用いたがん免疫療法は第四の治療法として注目されている。しかし、これらの治療法は重篤な自己免疫疾患関連副作用(irAE)、がん免疫編集機構による免疫系の疲弊、非常に高額な治療費、ウイルスベクターを用いた遺伝子導入など非常に多くの問題を抱えている。そこで本研究課題ではT細胞に対してCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いた非ウイルス遺伝子導入技術を開発し、1 STEPで抗原特的T細胞を作成し、各種がん、免疫疾患モデルマウスを用いて、その細胞の有効性を評価することで、免疫細胞療法の基盤技術を構築することを目的とした。平成30年度、研究計画に従い昨年度開発した新しいKnockin手法(CRISPR/Staple法)を用いてPD1遺伝子欠損かつOVA抗原特異的TCR遺伝子をTCRα定常領域にKnockinした内在TCR遺伝子欠損CD8+ T細胞の作成の条件検討を行った。その結果、約3%の割合で目的の細胞を得ることに成功した。しかし、依然Knockin効率が低いことから抗原提示細胞を用いた抗原特異的細胞の増幅培養を行う必要がある状況である。一方、マウスCD4(+)T細胞に対するゲノム編集の条件検討を行い、高効率でゲノム編集を行える条件を整えた。
2: おおむね順調に進展している
研究計画どおり、最終的にPD1遺伝子欠損かつOVA抗原特異的TCR遺伝子をTCRα定常領域にKnockinした内在TCR遺伝子欠損CD8(+)T細胞を作成することに成功している。さらにはCD4(+)T細胞に対するゲノム編集の条件検討を進め、共同研究にて本ゲノム編集を利用した関連研究成果を論文発表した。現状、遺伝子Knockin効率が低いことから今後より一層の技術開発が必要であるが、以上の理由から本研究課題は概ね順調に進展していると考えている。
今年度、米国のグループよりヒトT細胞に対するCRISPR/Cas9を用いた非ウイルス遺伝子導入技術が報告された(Roth TL et al., Nature 2018)。前述の通り、我々も異なる手法で目的とするCD8(+)T細胞の作成に成功しているが、本研究成果と比較し、依然Knockin効率が低い状況である。今後、本米国の研究グループの手法を踏襲しながらKnockin効率の改善を図り、in vivoでの細胞機能の評価実験に取り組む計画である。
研究計画の変更があり、マウスを利用したin vivo実験の実施を翌年度に変更することにした。次年度使用額に関しては、次年度実施するin vivo実験の消耗品費に使用する計画である。
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Nat Commun
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10.1038/s41467-018-06468-8
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