G47Δは、正常細胞では複製できず、がん細胞のみを破壊する、強力な抗腫瘍効果と高い安全性を併せ持つがん治療用ウイルスである。現在、前立腺がん・嗅神経芽細胞腫・悪性中皮腫を対象とした臨床開発が進行中であり、更には膠芽腫に対する第二相の医師主導治験が所属研究室で完了して令和3年には日本初のウイルス療法薬として製造販売承認された。このウイルス療法は様々ながん腫に対して有効であり、既存の治療に抵抗性を示すような難治性がんに対する新規治療法として適応拡大に向けて開発が進められている。 ウイルス療法においては感染したがん細胞に対して特異的な抗腫瘍免疫を惹起できるため、がんワクチンとしての効果をも併せ持つ。そこで、G47Δを基本骨格として、抗腫瘍免疫惹起能を更に増強させるようなウイルスを開発し、ウイルス療法の治療効果の増強を目指して本研究を進めてきた。 抗腫瘍免疫惹起能を更に増強させる分子を搭載したウイルスおよびCRISPR/Cas9ゲノム編集システムを用いて新規がん治療用HSV-1を作製し、抗腫瘍効果の検討を行った。作製したウイルスはいずれもマウス両側皮下腫瘍モデルを用いて、片側の皮下腫瘍のみにウイルス投与を行った場合に、遠隔の非投与腫瘍に対しても抗腫瘍効果を発揮し、特異的抗腫瘍免疫が惹起されていることの検証をリアルタイムPCRによる遺伝子発現解析によって行った。また作製した異なる分子を発現する複数種のウイルスをカクテルとして同時投与、あるいは逐次投与を行うなど様々な投与プランを検証し、最大の治療効果が得られるよう治療プロトコルを最適化し、臨床応用が可能な候補を絞り込んだ。
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