研究課題/領域番号 |
17K07215
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤木 文博 大阪大学, 医学系研究科, 特任准教授(常勤) (40456926)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ターミナルエフェクターT細胞 / メモリーT細胞 |
研究実績の概要 |
癌免疫療法において、分化段階をターミナルエフェクターではなくメモリーT細胞に留めた癌抗原特異的T細胞を効率的に誘導する方法が求められている。しかしながら、メモリーT細胞がターミナルエフェクターT細胞に分化する分子機構は明らかでない。そこで本研究では、申請者が発見したT細胞自身の代謝産物によるターミナルエフェクターT細胞分化促進メカニズムを詳細に解析することで、T細胞の分化制御および効率的なメモリーT細胞誘導方法の開発に貢献することを目的とする。 我々は、T細胞自身がビタミンAを代謝し、活性化型に変換することでレチノイン酸シグナルを誘導し、ターミナルエフェクターへの分化を促進させることを明らかにしてきた。平成29年度では、レチノイン酸シグナルがどのようにT細胞をターミナルエフェクターT細胞へ分化させているのか明らかにするために、当初の予定通りに、ヒストン修飾に焦点を当てたChIP-seq解析と網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、レチノイン酸シグナルは、ヒストンH3K9/14アセチル化を減少させ、ヒストンH3K27トリメチル化を増加させることが明らかとなった。このヒストン修飾の変化により、メモリーT細胞に関連するgene signatureが消失した。さらに、このようなChIP-seq解析によって得られたレチノイン酸シグナルによるエピジェネティック変化とレチノイン酸シグナルによって誘導された遺伝子発現の変化を重ね合わせて解析することで、T細胞の分化を制御すると思われる新たな遺伝子を複数同定することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レチノイン酸シグナルの下流で働く新規T細胞分化制御遺伝子の候補を複数同定することができた。現在、このうちの一つ(遺伝子Aとする)に注目し研究を進めているが期待通りの結果が得られてきている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では、レチノイン酸シグナルによる①epigenetic markerの変化、②遺伝子発現変化、そして③レチノイン酸レセプター結合領域の同定を行うことを目標にしていた。平成29年度では、①と②については達成することができたので、平成30年度では③レチノイン酸レセプター結合領域の同定を次世代シークエンサーを用いて行う。その結果を、①および②と比較解析することで、レチノイン酸シグナルによるターミナルエフェクターT細胞への分化機構を俯瞰する。
上記の①epigenetic markerの変化、および②遺伝子発現変化を比較解析したところ、新規のT細胞分化制御遺伝子候補を同定した。そのうちの遺伝子Aは、レチノイン酸シグナルによってヒストンH3K27トリメチル化が減少し、ヒストンH3K9/14アセチル化が増加する。このヒストン修飾の変化と一致して、レチノイン酸シグナルによりT細胞における遺伝子発現が増加する遺伝子であった。つまり、遺伝子Aは、ターミナルエフェクターT細胞への分化と一致して発現が上昇する特徴を持っていた。そこでリステリア菌感染症モデルにおいて、生理的にT細胞の分化と遺伝子Aの発現が一致するか検討したところ、short lived effector cellと呼ばれるKLRG1+CD127- T cellにおいて高い発現が認められた。また、感染後28日以降のmemory phaseにおけるCD62L-lowのエフェクターメモリーT細胞においても、CD62L-highのセントラルメモリーT細胞に比べて遺伝子Aの高い発現が認められた。したがって、この遺伝子Aは生理的にT細胞の分化を制御する遺伝子である可能性が高い。平成30年度では、遺伝子Aに関する研究をさらに推進する。また、そのほかの候補遺伝子についても、同様にT細胞分化との関連を詳細に解析していく。
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