研究課題
これまでの研究より、我々は、T細胞表面に発現する各細胞固有のT細胞受容体(T cell receptor: TCR)が有する抗原ペプチド-MHC分子複合体への反応の強さ(TCR avidity)に反映されない「何か」によってT細胞の分化の方向性(つまり、エフェクターT細胞もしくはメモリーT細胞に分化する方向性)や機能に違いが生じる可能性を示唆する結果を得た。しかしながらこの結果は、遺伝子背景や共刺激分子の細胞表面発現が様々なprimary T細胞を用いて得た結果であるため、正確にTCR avidityを評価できていない可能性が考えられた。そこで、T細胞の分化を決定づける因子を探索するにあたり、まず初めに、TCR avidityを正確かつ簡便に評価できるplatform細胞の作製を試みた。内因性TCR発現を欠いているJurkat-76細胞株にヒトCD8分子およびNFAT-GFPレポーター遺伝子を導入することで、PMA/ionomycin刺激によってNFAT下流のGFPが陽性となる2D3細胞の作製に成功した。この2D3細胞に、異なるα鎖およびβ鎖からなるTCRを有する4種類のWT1特異的CD8+ T細胞クローン由来のTCRをそれぞれ遺伝子導入し、WT1ペプチドに対する反応性をEC50で評価したところ4種類のTCRのavidityが異なることを明らかにできた。さらに、これらTCRをヒトCD8+ T細胞に遺伝子導入し、cytokine産生能および増殖能、細胞傷害活性によってeffector機能を評価したところ、high avidity TCRを発現するT細胞のみがこれらeffector機能を示した。以上より、TCR functional avidityを正確かつ簡便に評価できるplatform細胞(2D3細胞)の作製に成功した。この成果を2018年度に学会および論文で発表した。
3: やや遅れている
T細胞の分化の方向性を決定する因子を探索する上で、TCR avidityを正確かつ簡便に評価できるplatform細胞の作製に成功したことは重要であり、前進していると考える。しかしながら、TCRのavidityに依存しないメモリー指向性TCRを規定する遺伝子を探索するためには、分化様式が異なると考えられるCD8+ T細胞とCD4+ T細胞のいずれにおいても共通してT細胞のメモリーとしての性質(優れた増殖能や長期生存など)を規定する遺伝子を選択することが重要である。したがって、遺伝子探索に先立って、WT1特異的CD4+ T細胞由来TCRのTCR avidityを評価できるplatform細胞の作製を試みる。
2D3細胞にヒトCD4を遺伝子導入し、CD4-2D3細胞を作製する。このCD4-2D3細胞にすでに我々の研究室で樹立している2種類のWT1特異的CD4+ T細胞クローンより単離したTCRを遺伝子導入し、WT1ペプチドに対する反応性を評価する。また、これらTCRをprimary CD4+ T細胞に遺伝子導入しcytokine産生能などの機能評価を行う。CD4-2D3細胞で評価したTCR avidityとTCR導入CD4+ T細胞で評価した機能が一致する、CD4+ T細胞由来TCRのTCR functional avidityを正確かつ簡便に評価できるCD4-2D3細胞の樹立を試みる。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Oncotarget
巻: 25 ページ: 34132, 34141
10.18632/oncotarget.26139
巻: 9 ページ: 27797, 27808
10.18632/oncotarget.25591