研究課題/領域番号 |
17K07219
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
狩野 有宏 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (30403950)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | がん細胞 / 免疫抑制 / 脾臓 / IFN-γ / M-CSF |
研究実績の概要 |
マウス乳がん細胞4T1をマウスに移植することで、脾腫が起こることが知られている。私はこの状態の脾臓細胞を培養することで、一時的にIFN-γが著しく産生されることを見いだしている。さらに4T1細胞の培養上清中が、この亢進したIFN-γ産生を抑制することを見いだし、抑制因子としてM-CSFを同定することに成功している。本研究では、M-CSFによるIFN-γ産生抑制メカニズムの解析、生理的意義の解明、そしてM-CSF以外のIFN-γ産生抑制因子の同定を目的にしている。 1) IFN-γ産生抑制を担う細胞として骨髄系の細胞に着目し、M-CSFの標的となる細胞を脾臓中に見いだした。この細胞は4T1移植後に出現し、徐々に脾臓中に増加することを明らかとした。これはがん細胞によってがん免疫を抑制する細胞が誘導されること示す成果である。また、M-CSFは転写後のスプライシングにより複数のバリアントが存在することが知られているが、RT-PCRにより実際に4T1細胞には二つのバリアントが発現していることを確認した。この二つのバリアントの活性を比較検討するために、ヒスチジンタグ(His-tag)をM-CSFに挿入した組換え遺伝子を作製し、リコンビナントタンパク質を得た。M-CSFは翻訳後、N末、C末、両末端がプロセッシングされるが、それぞれの末端にHis-tagを入れることにも成功した。実験の結果、二つのバリアントにはIFN-γ産生抑制活性に差が見られなかったものの、His-tagをN末に挿入したものと、C末に挿入したもので活性に相違があることを示唆する結果を得た。 2) CRISPR Cas9システムによりM-CSF欠損4T1細胞を作製することに成功した。クローニングの結果、M-CSFを欠損していてもIFN-γ産生抑制活性を示す細胞株を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1. 4T1細胞移植後にM-CSFの標的となる細胞が脾臓に出現し、徐々に増加することを見いだすことに成功したが、当初は、実験機器の制限のため、マグネットビーズによる脾臓細胞の分画を試みた。しかしながらメーカーのアドバイスも頂きながら、相当の予算と時間を掛けたものの、成功には至らなかった。そこで他キャンパスにあるセルソーターの講習を受け、それを使用することで、ようやく上記したように標的細胞を見いだすことに成功した。今後信頼あるデータとするための確証実験や同定した細胞を確定するための種々表面抗原の解析が必要とまだまだ必要と考えられる。 2. 4T1細胞の培養上清10Lを回収し、IFN-γ産生抑制因子の同定を試みた。しかしながら、最後に実施した再度の疎水カラムによる分画にて活性が消失するという事態に至った。最初のイオンクロマトグラフィーによる分画の段階で、一部、これまでとは異なる溶出チャートの結果となっていたのにもかかわらず、これを全て混合し、次のステップに進めてしまったことが失敗の原因であると考えられた。また溶出チャートがこれまでの結果と異なった原因は培養上清に血清が混入してしまったためと考えられる。IFN-γ産生抑制活性を有するM-CSF欠損細胞を得ることに成功したことから、今後その細胞を使い、再度抑制因子の同定を試みる。 3. CRISPR Cas9システムによりM-CSF欠損4T1細胞を作製することに成功した。しかし、M-CSFの発現量が極めて少なく、タンパク質レベルでの確認に時間がかかった。最終的に異なる二つの抗M-CSF抗体を使った免疫沈降によって、検出に成功し、M-CSFの欠損を確認するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
1. 4T1細胞移植後にM-CSFの標的となる細胞が脾臓に出現し、徐々に増加することを見いだした。複数のマウスで検証実験を行っており、この現象事態は確定的である。しかしながら、マウス個体を使った実験のため、データーの定量性に問題がある。条件をそろえた複数のマウスによる実験を行い、統計処理を施したデータ得る。また出現した標的細胞に対し、種々の表面抗原の検証を行い、キャラクタリゼーションを実施する。 2. M-CSF欠損4T1細胞の培養上清10Lを回収し、IFN-γ産生抑制因子の同定を試みる。これにより活性を指標にM-CSFとは異なる抑制因子を確実に追うことができる。また、培地中に血清が存在するとその後のクロマトグラフィーによる精製が困難であることから、慎重に回収する。精製のスキームは昨年度実施した方を踏襲できると考える。 3. 動物細胞に発現させたC末His-M-CSFは、すでにNiカラムによりmgレベルで回収精製した。次年度はN末His-M-CSFの安定発現細胞を作製し、同様に回収精製する。回収後定量的にC末His体、N末His体を比較検討する。IFN-γ産生抑制活性に差があることを確認後、骨髄細胞を使ったコロニーフォーメーションアッセイでも検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度マグネットビースによる脾臓細胞の細胞分画を試みたが、十分に分離することはできなかった。そこで他キャンパスのセルソーターを使わして頂き、標的細胞の出現を確認することができた。この際機器使用料が発生しているが、校費を充当した。また、細胞のキャラクタリゼーションに種々の抗体が必要であるが、今回の残額では抗体購入には足りないため、翌年度予算と合わせて抗体購入に使用する予定である。
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