研究課題
核小体ストレス応答は、癌抑制因子p53を制御する新たな機構として注目されている。ActinomycinD等の薬剤、栄養飢餓、接触抑制は、リボソーム構築過程を障害する。このようなリボソーム構築障害は、核小体内に存在するRPL5やRPL11などのリボソームタンパク質の核小体からの遊離を促進させ、これが核小体外の領域に存在するMDM2と結合する。結果として、MDM2によるp53の分解が抑制され、p53依存性の細胞増殖が抑制される核小体ストレス応答を起こす。核小体ストレス応答は、DNA損傷なしに、p53蛋白質を増加させることから、多くの抗癌剤で問題であった遺伝毒性を生じない魅力的な癌治療標的と考えられた。また蛋白質合成が盛んな癌細胞では、リボソームの生成が高まっており、リボソーム構築障害で誘発される核小体ストレスに、高い感受性を示すと考えられ、この応答を誘導する薬剤は正常細胞への影響が小さい治療濃度域でも、腫瘍細胞を死滅させることが可能であると予想される。そこで、我々は新たに、核小体ストレス応答を検出できる蛍光レポーターシステムを構築し、20万規模の薬剤をスクリーニングし、核小体ストレス応答を誘導するヒット化合物を多種類、見出した。核小体ストレス応答はp53の作用を必要とするため、P53野生型とノックアウト白血病細胞における生存率を比較したところ、これらの化合物の一部は、p53依存性に細胞生存性が著しく低下することが見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
20万種の大規模な化合物ライブラリーをスクリーニングし、核小体ストレス応答を誘導する化合物が多数得た。また、これらのヒット化合物の一部は、腫瘍細胞の生存性を低下させる作用を見出し、抗腫瘍効果も確認できた。さらに、この抗腫瘍効果は、p53欠損細胞では、抑制されており、核小体ストレス応答機能を必要としている可能性を示した。このように、一連のスクリーニングによって、短期間のうちに、核小体ストレス応答を利用した新たな抗がん剤候補化合物が同定できたことは、癌治療学分野に新展開をもたらすことが期待できたため。
今後は、プロファイリングやカウンターアッセイによって、核小体ストレス応答を特異的に誘導する薬剤のさらなる選定を行う。また得られた化合物は、構造改変によって、特異性や、抗腫瘍効果の高まる化合物を作製し、新規の抗がん剤の開発につなげる。
本年度は、抗がん剤のスクリーニングに集約的に取り組んだため、細胞分裂を制御する核小体ストレス応答の新たな生理的役割の解明や、核小体ストレス応答を利用した診断技術の開発の検討が十分に行うことが出来なかったため、未使用金が生じた。次年度以降に、これらの課題を取り組む費用に充てる。
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http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~moloncl2/index.html