研究課題
国内外でMDM2阻害薬の治験が開始され、癌抑制因子p53を活性化するがん分子標的薬への期待が高まっている。しかしながらMDM2阻害薬は正常細胞にもp53応答を起こし、血小板減少や骨髄抑制が生じることから、副作用が少ないp53経路を活性化する薬剤が求められる。近年PICT1/RPL11結合による核小体ストレス応答が、DNA損傷なしにp53経路を活性化する新たな機構として注目されている。これまでに、PICT1遺伝子欠損マウスやヒト腫瘍検体の解析から、PICT1発現低下による核小体ストレス応答は、マウスの成育に大きく影響せず、p53を増加させ腫瘍細胞の増殖や個体の腫瘍形成を強く抑制し、p53依存性に腫瘍患者の予後良好さとの相関することを、我々は独自の検討から明らかにした。このように核小体ストレス応答が新たな癌治療標的となる可能性が考えられたことから、独自にセルベースの核小体ストレス応答を特異的に検出できる蛍光レポーターシステムを構築し(特許第6323868号)、20万規模の化合物ライブラリーから、薬剤スクリーニングによって核小体ストレス応答を誘導する初期ヒット化合物を得た。さらに、カウンターアッセイやプロファイリングアッセイを行い、DNA損傷等の作用なしに、核小体ストレス応答によりp53を増加させ、p53依存性にリンパ腫細胞にアポトーシスを起こすシード化合物を得た。さらにシード化合物から構造展開を検討し、構造活性相関を明らかにするとともに、活性や特異性が高まった新規化合物を見出した。興味深いことに、この化合物は治験中のMDM2阻害薬に比べ、ヒト末梢血単核細胞への毒性が極めて低い。現在までに核小体ストレス応答を標的としたがん治療薬は存在しないことから、MDM2阻害薬に比べ副作用を抑えた、新規機序でp53経路を活性化する分子標的治療薬の開発が期待できる。
1: 当初の計画以上に進展している
核小体ストレス応答を誘導し、DNA損傷なしにp53を増加させ、p53依存性に腫瘍細胞にアポトーシスを起こすシード化合物を見出した。この化合物をもとに構造展開によって、新たなPrelead化合物を同定した。さらに、現在国内外で臨床治験が多数進行しているMDM2阻害薬に比べ、Prelead化合物は、正常細胞への毒性が少なく、有用性も極めて高い。今後開発を進めることで、副作用を抑えた世界初となる核小体ストレス応答を利用した革新的ながん治療薬の開発が見込め、がん分子標的治療分野や広く癌治療を行う医療分野に、新展開が期待されるため。
今後、preleads化合物の物性の改善、病態モデルマウスでのin vivoの抗腫瘍効果と安全性の確認を進め、着実に前臨床試験を進め、臨床治験へつなげる。
(理由)本年度は、化合物の細胞レベルでの抗がん作用や生化学、細胞生物学的解析に力点を置いて検討したため、マウス等を用いた病態モデルの解析を次年度に行うことなり、残額が生じた。(使用計画)さらに細胞レベルの効果を検証し、マウスへの投与が可能な物性や安定性に優れた化合物を特定した後、投与経路、投与方法の検討を行うとともに、in vivoでの抗癌薬理効果の試験を実施する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Br J Cancer
巻: 120 ページ: 819-826
10.1038/s41416-019-0413-x.
Pharmacol Res.
巻: 132 ページ: 15-20
10.1016/j.phrs.2018.03.019.
Sci Rep.
巻: 8 ページ: 6760
10.1038/s41598-018-25189-y
Oncoscience
巻: 5 ページ: 88-98
10.18632/oncoscience.411.
http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~moloncl2/