近年、P53経路を活性化する、核小体ストレス応答機構が明らかになってきた。核小体ストレス応答は、核小体の機能異常によって細胞増殖を抑制する機構と考えられていたが、核小体の機能が変化する分裂期での制御や、核小体ストレス応答を利用した抗がん剤の可能性については、不明である。そこで、本研究では、細胞分裂期における核小体ストレス応答の役割を明らかにするとともに、核小体ストレス応答を利用したがん分子標的治療薬の開発を行うことを目的として、以下の結果を得た。 ①細胞分裂期制御の役割解明 近年、細胞分裂期阻害によって、細胞老化が誘導されることが明らかになっている。核小体ストレス応答の機能を低下させた細胞では、分裂期阻害薬を処理しても、細胞老化の誘導が低く抑えられることを見出した。さらに核小体ストレス応答の抑制によって、細胞老化で起こるP53経路の活性化も低下した。このように核小体ストレス応答は、分裂期停止で起こる細胞老化を制御する新たな機構となる可能性が考えられた。 ②がん治療薬の開発 これまで核小体ストレス応答を誘導し、P53の増加により、P53野生型小児白血病細胞にアポトーシスを起こす新規化合物を同定した。この化合物を活用し、薬効薬理作用を検討したところ、1)様々な造血器腫瘍や固形がんに強い薬効を示すこと、2)実薬、競合薬に比べ、DNA損傷なく正常な末梢血単核細胞への毒性が低いこと、3)化合物に結合する候補タンパク質群、4)感受性に関連する遺伝子や経路、5)患者層別化につながる感受性を予測する測定系、6)in vivoの薬物動態が良好であること、7) 2週間の連続投与によるマウスの外見上の異常や体重減少はみられないこと、を明らかにした。今後、核小体ストレス応答を利用したがん分子標的治療薬及び感受性を予測する診断薬の開発、個別化がん治療への貢献が期待できた。
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