研究実績の概要 |
パルミトイルピペリジノピペリジン(PPI)は私たちの研究グループが独自に開発した新規抗がん物質である(特許第5597427号, 2014年登録)。これは、天然物にはがん細胞だけを殺し正常細胞への毒性が少ないという特性(腫瘍選択性)をもつ物質が含まれるとの私たちの研究成果にもとづいている(Oncol Rep 2: 349, 2009)。これまでのPPIについての研究(科研費H22~24, H25~28)では、コンピュータ解析(インシリコ)において、PPIは転写因子STAT3の2量体形成を阻害することで転写活性を抑制することが予測された。リポーター遺伝子を用いた解析では、PPIは実際にSTAT3転写活性を抑制することを見いだした。その他の所見として、PPIはSTAT3を標的分子として(i)ヒト大腸がん細胞に対する高い腫瘍選択性、(ii)STAT3リン酸化抑制、(iii)アポトーシス誘導、(iv)血管新生抑制、(v)移植腫瘍の縮小、(vi)大腸発がんプロモーション抑制がわかった。PPIの優れた特性は高い腫瘍選択性と個体レベルでの低毒性である。しかし、PPIがどのようにして腫瘍選択性を発揮するのかはわからなかった。科研費H29~32ではこの課題に取り組み、腫瘍選択性に必須の構造(ファルマコフォア)を同定した。さらに、腫瘍選択性には、N(窒素)原子がもつプロトンをひきつける特性(求核性)が重要な役割を担っていることを突き止め、PPIのピペリジン構造を開環する(求核性を上げる)ことで腫瘍選択性と抗がん効果がPPIより高い独自のプロトタイプ化合物(プロトA)の開発に成功した(特許第6532730号, 2019年登録, プロトA: N, N-bis(3-(dimethylamino)propyl)hexadecanamide)。
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