研究課題/領域番号 |
17K07225
|
研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
堀内 大 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (30608906)
|
研究分担者 |
村上 孝 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (00326852)
高木 徹 埼玉医科大学, 保健医療学部, 助教 (20536891)
松井 政則 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (50199741)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 腫瘍 / ゲノム編集 / ベクター / 腫瘍細胞死 / 貪食 |
研究実績の概要 |
マクロファージの発現するGPNMB/DC-HILは、創傷治癒過程においてCD44分子を介して間葉系幹細胞の増殖を促進することが報告された。また、GPNMB/DC-HILは、様々な悪性腫瘍の細胞膜上にも発現しており、腫瘍病態進展との関連が報告されている。このことから、GPNMB/DC-HILはCD44などの分子を介して腫瘍細胞と宿主由来細胞の双方の機能を調節し、腫瘍微小環境形成に影響を及ぼしていると考えられる。 本研究ではGPNMB/DC-HIL関連遺伝子をノックアウトするためのCRISPR/Cas9システムを構築し、関連遺伝子をノックアウトしたマウス腫瘍細胞株を樹立した。特に、CD44は非常に効率よくノックアウトすることが可能なガイドRNAが得られたため、CD44を標的として、上述のCRISPR/Cas9システムを生体内腫瘍組織に効率よく運搬できるベクター系の開発を目指した。CD44は腫瘍内のみならず正常組織にも発現する分子であることから、腫瘍集積性の高いベクターシステムを利用することとし、嫌気的腫瘍微小環境への集積が報告されている細菌をベクターとして利用することとした。 マウス腫瘍細胞株を用いたin vitro実験により、本細菌がほぼ全ての細胞に感染する感染価および感染時間を決定した。この細菌に上述のCRISPR/Cas9システムをコードしたプラスミドを導入し、遺伝子改変菌株を得た。この菌株を腫瘍細胞に感染させ、FACS解析したところ、導入プラスミド由来のGFP蛍光と、CD44発現の減弱を確認したが、CD44発現の完全ノックアウトには至らなかった。一方で、感染から一定時間を経た細胞は、特異な細胞死に陥ることを見出した。さらに、感染細胞とマクロファージ細胞株を共培養すると、感染細胞は効率よく貪食されるとともに、マクロファージ細胞表面の抗原提示副刺激分子の高発現を誘導した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に続き、2019年度も本研究で同定したgRNAを利用したCRISPR/Cas9プラスミドを生体内に適用するための新しいベクターシステムの構築に取り組んだ。その結果、細菌を用いた新しいベクターシステムが腫瘍細胞に感染する効率の良い条件を見出し、CRISPR/Cas9が腫瘍細胞に送達されていることをin vitro実験で確認した。 さらに、このベクター細菌に感染した腫瘍細胞には特異な細胞死が誘導され、高い被貪食性を呈することが明らかとなった。 本ベクター細菌が貪食性の高い特異な細胞死を誘導することはセレンディピティであるが、これは本研究が目指す宿主免疫応答再賦活化による新規腫瘍治療の開発において大変重要な知見であり、今後の研究推進方策のユニークな立脚点となると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度作製したベクター細菌の感染により細胞死に陥った腫瘍細胞から産生・放出されるサイトカインやDamage Associate Molecular Patternなどについて多角的に解析し、本ベクター細菌が引き起こす細胞死の免疫学的な意義を検討する。 さらに、この細胞死に対する宿主免疫細胞の応答様式を解析するため、ベクター感染腫瘍細胞と宿主免疫細胞を用いた各種in vitro免疫アッセイ、マウス移植腫瘍モデルを利用したin vivo実験を行う。 以上の検討から得られた結果を考察し、ベクター自体の殺腫瘍細胞効果と宿主抗腫瘍免疫応答の相乗効果を利用した新規腫瘍治療開発の基盤確定を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ベクター系構築に時間を費やし、免疫応答の検討が計画通りに進まず、関連試薬・消耗品などの支出が抑えられていた。 次年度はベクター細菌感染が誘導する細胞死と、この細胞死によって誘導される免疫反応の解析に用いる試薬類及びin vivo実験に供する実験動物費用、成果発表費用などで、全額執行する計画である。
|