研究課題
1.ゴルジ機能阻害剤により発現変動する細胞表面タンパク質の探索とその発現調節機構の解明ヒト細胞表面分子アレイ(BD Bioscience社)を用い、5種類のヒトがん細胞株におけるゴルジ機能阻害剤M-COPA暴露前後の細胞表面分子の発現変動をフローサイトメトリー(FCM)により解析した。細胞表面に発現するタンパク質は、ゴルジ体を介して輸送小胞により細胞表面まで運搬されると考えられ、ゴルジ機能を阻害することにより、すべての表面分子の発現低下を期待した。ところが、意外なことに、細胞表面発現が顕著に抑制されたのは一部のタンパク質に限られ、残りの分子は発現低下が認められなかった。一例として、受容体チロシンキナーゼ(RTK)のうちMETやFGFRなどは細胞表面発現が顕著に抑制された一方、まったく抑制されないRTKも見出された。このことは、de novoに生産されたタンパク質が細胞表面まで運搬され、発現するまでの分子機構が、タンパク質ごとに異なることを反映しているものと考えられた。2.三次元培養系を用いた細胞表面タンパク質発現と抗がん効果の関連分析JFCR39細胞株でスフェロイドを形成する細胞を選別し、M-COPA曝露後の変化を観察した。興味深いことに、in vivoでM-COPA感受性を示すヒト胃がん細胞株で、細胞増殖抑制を起こす濃度より低濃度のM-COPA曝露によりスフェロイドが崩壊することを見出した。この性質はM-COPAに特徴的で、5-FUやシスプラチンといった代表的な抗がん剤では認められなかった。また、M-COPAによるスフェロイド崩壊時の細胞表面分子の発現阻害をFCMにより解析したところ、スフェロイド崩壊に伴い発現が顕著に抑制される細胞接着分子を見出した。見出した細胞接着分子の発現低下の、スフェロイド崩壊への機能的関与が注目された。
2: おおむね順調に進展している
in vivoゼノグラフトモデルでM-COPAが抗腫瘍性を示した5種類のヒトがん細胞株を用いて、ヒト細胞表面分子アレイ(BD Bioscience社)に含まれる242種類の細胞表面分子について、単層培養時M-COPA処理前後の発現変化をフローサイトメトリー(FCM)により網羅的に解析した。その結果、すべての細胞表面分子の発現が抑制されることはなく、顕著な発現抑制を来した分子は一部に留まった。そこで、M-COPA曝露により特定の細胞表面分子の発現が低下することがM-COPAの抗がん効果に機能的に関与しているとの仮説を立て、顕著な発現抑制が認められた分子について、M-COPA非存在下においてsiRNAにより発現抑制させ、がん細胞の生存・増殖に対する影響を順次検討した結果、発現ノックダウンにより細胞増殖を顕著に抑制する受容体チロシンキナーゼを同定した。一方、in vivoの微小環境を模倣するためのスフェロイド培養系を構築するために、JFCR39に含まれるがん細胞株について低吸着U底プレートにてスフェア形成する細胞のスクリーニングを行い、23細胞株を同定した。そのうち、in vivoでM-COPAが奏功する胃がん細胞株をモデルとし、スフェロイド培養下でM-COPA曝露後の形態変化を観察したところ、増殖抑制をきたす薬剤濃度より低濃度のM-COPA曝露によりスフェロイドが崩壊することを見出した。M-COPA以外の3種の化学療法剤について同様なアッセイを行った結果、低濃度の薬剤曝露でスフェロイド崩壊を起こすのはM-COPA特異的な現象であった。そこで、計画を前倒しして、スフェロイド培養系においてM-COPAが細胞表面発現を阻害する表面分子のスクリーニングを進めたところ、スフェロイド崩壊に関与しうる細胞接着分子の顕著な発現抑制を見出した。以上のように、研究はおおむね順調に進展している。
単層培養系のスクリーニングで昨年度までに見出した、M-COPAにより顕著な細胞表面発現低下を起こすタンパク質、まったく影響しないタンパク質に関して、どのようなメカニズムで細胞表面発現が調節されているのかを明らかにし、両者の相違について分子レベルで解明する。また、スフェロイド培養系でのスクリーニングで、スフェロイド崩壊時にM-COPAによって表面発現が阻害される細胞接着分子について、その下流シグナルが阻害されるかどうかを確認する。同時に、当該接着分子の発現低下がスフェロイド崩壊や抗がん効果にどのような機能的関与をするかを解明するために、中和抗体やsiRNA処理によって当該分子による細胞接着を抑制した際の形態変化、増殖に対する影響を評価する。細胞表面分子と並行して、分泌タンパク質および細胞外に分泌されるエクソソーム中に含まれるmiRNAに対して、M-COPA曝露の影響を調べる。以上の研究から、M-COPAによる抗がん機構を解明と効果予測バイオマーカーの同定を目指す。
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