研究課題
我々は、化学療法・放射線療法耐性である悪性中皮腫のがん幹細胞を特定し、癌幹細胞阻害剤(スタウロスポリン(STS))をスクリーニングにより見いだした。さらにSTSをエピルビシン(Epi)ミセルに同時封入することによって、がんの完治を目指したナノ治療薬の開発に成功した(ACS Nano 10 (6) 5643-5655 (2016))。そのミセルはpH応答性Epiミセルと同様に、がん組織周辺および癌細胞内の低pH環境に応答してSTSとEpiを同時に放出し、悪性中皮腫細胞の同所移植マウスモデルに対して、全例3ヶ月以上の生存が確認され、投薬休止後も半数以上の個体で9ヶ月以上再発しなかった。本年度は、STS内包Epiミセルの耐性獲得腎がんに対する効果をスニチニブ耐性腎癌 786-0/感受性腎癌SKRC45を用いて同所移植モデルによって、比較・検証した。STS内包Epiミセル投与によって、スニチニブ耐性腎癌同所モデルに対しても、全例3ヶ月以上の生存が確認された。 さらにその薬剤耐性克服のメカニズムについても、検討を行った。その結果、スニチニブ耐性は、PTENの欠失によるMDR-1の高発現によって起こり、PTEN遺伝子を加えるとMDR-1の発現がなくなり、スニチニブ感受性に転換した。スタウロスポリンは、MDR-1の活性を抑制し、がんの耐性を克服することを明らかにした。さらに、マウス腎癌細胞(Renca)を用いて、同所移植・肺転移モデルを作製し、STS/Epi 内包ミセルを投与したところ、STS/Epi/mは、スタウロスポリンを加えることによって肺への転移を有意に抑制した。
2: おおむね順調に進展している
順調に研究成果が出ている。来年度に予定している新規の薬剤耐性抗癌剤のスクリーニングを行っており、新規のスタウロスポリンホモログの合成に成功しており、新規ミセルの作製に着手している。本年度の成果は、現在、論文の投稿を行っている。
前述のようにさらに安全性の高いミセルの作製に着手している。 新規のスタウロスポリンホモログを同定し、そのミセル化を試みている。前述の様に、スタウロスポリンは、MDR-1を抑制し、高い抗腫瘍効果および、転移の抑制があることを見いだしたが、スタウロスポリンは、毒性のウインドウが狭いため、新規のスタウロスポリンホモログの同定とミセル化を試みている。
研究の進捗は、順調であったが、昨年度に購入した試薬での研究の継続、および、論文発表の準備のため、本年度の使用額が少なくなった。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
ACS Nano
巻: 13 ページ: 2357-2369
10.1021/acsnano.8b09082
J. Control. Release
巻: 295 ページ: 268-277
10.1016/j.jconrel.2019.01.006