研究課題/領域番号 |
17K07235
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研究機関 | 静岡県立静岡がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
飯塚 明 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, 研究員 (00463183)
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研究分担者 |
秋山 靖人 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, 副研究所長 (70222552)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 腫瘍免疫 / B7-H4 / 二重特異性抗体 / マウスモデル / 乳癌 / T細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、B7-H4を発現した癌細胞と腫瘍浸潤マクロファージをキラーT細胞に認識させるために抗B7-H4、抗CD3二重特異性抗体を作製し、癌治療に用いることを目的とする。本研究所内で樹立された抗B7-H4抗体及び抗体医薬品として実績のある抗CD3抗体の遺伝子配列を基に、構造の異なる2種類の二重特異性抗体 (Fab-scFv、scFv-scFv) を作製した。また、B7-H4発現癌細胞、CD4陽性T細胞及びCD8陽性T細胞のいずれにも結合することを確認した。 体外での条件検討では、二重特異性抗体依存的にヒト末梢血リンパ球による乳癌細胞株MDA-MB-468に対する傷害作用が確認され、24時間の培養下では50%最大作用濃度 (EC50) が0.23ng/mlと極めて低い濃度でT細胞による細胞性細胞傷害作用を引き出せることを明らかとした。B7-H4を発現する他の乳癌細胞株に対しても二重特異性抗体依存的傷害作用が確認されたが、B7-H4を発現しないヒト乳管上皮細胞に対する作用は見られなかった。また、抗体濃度が濃くなりすぎると作用が減弱する現象も確認された。 免疫担当細胞の一部でB7-H4が発現することが報告されているが、我々の検討では二重特異性抗体によるT細胞同士あるいは活性化T細胞同士の傷害作用は確認されず、B7-H4を発現したマクロファージ様の活性化U937細胞株に対する傷害作用は確認された。 現在ヒト免疫系を移植したマウスモデルで二重特異性抗体の効果を検討しているが、マウスに形成されたヒト乳癌細胞株でのB7-H4の発現、及び少数のマウスを用いた実験での腫瘍の拒絶が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
乳癌細胞株に対してT細胞性細胞傷害を誘導可能な新規の二重特異性抗体の設計、作製に成功した。少数のヒト化マウスを用いた先行実験では、マウスに形成された腫瘍の退縮、腫瘍細胞の消失が観察されており、当初計画予定より早く進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
正常組織及び乳癌以外の腫瘍組織でのB7-H4の発現状態の確認:正常組織細胞の細胞表面(細胞膜上)でのB7-H4の発現は極めて限局的だと報告されているが、当研究所内で樹立され二重特異性抗体に使用されている抗体クローンがいかなる結合性を示すかどうかを検討する。正常組織アレイ及び腫瘍組織アレイを用い、各組織でのB7-H4の発現状態、樹立した抗B7-H4抗体クローンの結合性を免疫組織化学染色により明らかとする。 マウス体内での二重特異性抗体の動態測定:健常マウスおよび高度免疫不全マウスを用い、二重特異性抗体投与後の血液を継時的に採血し、B7-H4融合タンパクと抗体を用いたサンドイッチELISA法でマウス血清中の二重特異性抗体濃度を測定し血中半減期、体内半減期を算出する。 確立された腫瘍に対する当該二重特異性抗体の効果判定:MHCダブルノックアウトNOGマウス (NOG-IAβ、β2M double KO) はMHC-class Iが欠損しており、移植したヒト末梢血単核球中のキラーT細胞によるマウス細胞への攻撃がなく、ヒト免疫細胞とヒト癌細胞の直接的な反応をマウス体内で見るためには現在、最も理想的なマウスモデルであるといえる。このマウスを用い、ヒト末梢血免疫細胞とヒト乳癌細胞株又はヒト肺癌細胞株を同時に移植したモデルを作製し、二重特異性抗体の効果を検討する。現在、MHCノックアウトNOGマウスを用いたヒト化マウスモデルを用いてインビボ試験を始めているが、当該マウスが高価なため、他に代用可能なマウスモデルがあるかどうかも検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)二重特異性抗体の設計、製造が予想よりも順調に安価に進んだため。 (使用計画)実験動物及び試薬などの消耗品の購入に使用する予定。
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