研究課題
我々の構築したTCR発現ファージミッドが機能するのか、実験条件は適切か等を判断するために、内部コントロールとなる試料を用いた予備実験が必要である。この目的で、英国のグループがファージディスプレイ法で親和性改良に成功したHLA-A*02:01拘束性HTLV-1Tax特異的CTLクローンA6のTCRを用いたコントロール実験を実施した。野生型A6およびファージディスプレイ法で得られた高親和性クローンc134(TCRβ鎖CDR3領域のアミノ酸4個が変異)それぞれを発現するファージミッドからファージ粒子を作製した。ストレプトアビジンがコートされたプレートに、ビオチン付加HLA-A2/Tax(コントロール抗原としてHLA-A2/EBV-LMP1を使用)を結合させた後、作製したファージを反応させた。検出は抗Fdファージ・ウサギ抗体で行った。A6およびc134、それぞれの親和性に相応した抗原への特異的結合を示す結果が得られた。次に、野生型A6のTCRβ鎖CDR3領域の当該アミノ酸部位にランダム変異を含有するライブラリーを作製し、ビオチン化HLA-A2/Taxペプチド複合体とストレプトアビジン磁気ビーズを用いたパニング法で、高親和性クローンを濃縮・回収した。変異部位のDNAにはc134に近似したアミノ酸が集積していた。すなわち、我々の設定した条件において、高親和性のTCRを濃縮・回収できることが示された。しかし、我々が保有している3種類のHLA-A*24:02拘束性TCR (hTERT, EpCAM, CMV pp65)を供した実験では、親和性の増加したTCRは得られなかった。TCRによっては、ファージ表面に機能的蛋白が十分に表出しない可能性があると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
1)CD3発現293T細胞を用いたTCR解析:TCRが細胞表面に発現するには、4個のCD3サブユニットが必要である。このため、単離したTCR遺伝子の発現をする際には、通常、末梢血T細胞にレトロウイルス等で導入することが多い。本研究計画では、多数の変異TCRクローンを解析する必要があるので、簡易な方法を開発した。すなわち遺伝子導入が容易な293T細胞にCD3の4個のサブユニットを導入した293T-CD3細胞を作製した。pcDNAベクターに組込んだTCRα鎖とβ鎖を遺伝子導入すると、細胞表面にCD3およびTCR複合体が表出する。段階希釈したHLA-テトラマーで染色することで、親和性の増強および特異性についても解析できるので、この系を使用する予定である。2)リコンビナントTCR蛋白の作製と結合能の解析:pET発現ベクターの下流にα鎖およびβ鎖遺伝子をそれぞれ組込み、封入体として回収したTCRαおよびβ蛋白を8M尿素に溶解した。緩衝液中で希釈し、αβヘテロダイマーの形成を促した後、高速液体クロマトグラフィーで単離・精製した。将来的には、このリコンビナントTCR蛋白と、ビオチン化HLA/ペプチド複合体を試料とし、Biacoreシステムを用いた結合定数の算出を行う予定である。
我々の構築したファージディスプレイシステムはHLA-A2拘束性のHIV-taxに特異的なT細胞受容体(TCR)では問題なくワークした。しかし、HLA-A24拘束性の3種類のTCRを用いた親和性成熟実験では、これまでのところ高親和性のクローンを取得することができなかった。この点についてイギリスの先行研究者に相談した結果、一定以上の親和性を有する野生型TCRを使用する必要がある、という助言を得た。上記のHLA-A2拘束性HIV-tax特異的TCRはその条件を備えていると考えられた。そこで、比較的高親和性のCTLクローンをヒト末梢血から新たに樹立する実験を計画した。加えて、培養細胞を用いたTCRディスプレイシステムの着想を得た。すなわち、目的のHLA陰性のヒト末梢血から得た樹状細胞に目的のHLAのmRNAを電気穿孔法にて導入し細胞表面に発現させた後、がん抗原ペプチドをパルスして抗原提示細胞として使用する。同じドナーのCD8陽性リンパ球と混合培養して目的のHLA拘束性のがん特異的CTLを得る。このCTLはアロHLA拘束性であるため高親和性である可能性が高い。5'-RACE法を用いてCTLからTCR遺伝子を単離した後、ファージミッドベクターに組換えてファージディスプレイ実験に供する。2Aペプチド配列でタンデムにつなげた4個のCD3遺伝子をオーバーラッピングPCR法にて作製する。発現ベクターに組み込んだ後に、適切なヒト培養細胞に遺伝子導入する。任意の部位にランダムな変異を加えたTCRαおよびβ遺伝子をこの細胞に導入して、TCRを細胞表面に発現させる。テトラマーに強く染まる細胞をセルソーターにて分取する予定である。
研究計画の変更に基づき、ヒト末梢血から高親和性のCTLクローンを新たに樹立する実験および培養細胞を用いたTCRディスプレイシステムの検証実験を実施するために、60万円を前倒し請求した。末梢血ドナーのリクルートが当初の予想よりも進まなかったので、経費が残った。平成30年度に再度リクルートして使用する予定である。
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Sci Rep.
巻: 7 ページ: 3663