研究課題/領域番号 |
17K07242
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
高瀬 稔 広島大学, 両生類研究センター, 准教授 (80226779)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 性決定 / 両生類 / ネッタイツメガエル |
研究実績の概要 |
本研究は、XX/XY型性決定様式を示すネッタイツメガエルの雄決定遺伝子の探索および同定を目的としている。これまでに、ゲノム解析による雄決定遺伝子の探索を試みた。YY超雄とXX雌についてゲノム解析を行い、第1~第10染色体それぞれにおいて雌雄間で異なるゲノム配列を調べた結果、全ての染色体において雌雄間で異なる多くの塩基配列が認められた。本研究に用いたネッタイツメガエルは、繁殖可能な性転換個体が作製できることから、遺伝的雌雄共に雄化遺伝子群と雌化遺伝子群の両方を併せ持っていると考えられる。従って、雌雄間のゲノム配列の違いは少ないことが予想され、ゲノム配列の違いから性決定遺伝子を探索できると考えていた。しかし、多くのゲノム塩基配列の違いが雌雄間で認められたことから、今年度は生殖腺分化過程において発現している遺伝子をRNA-seq解析により網羅的に調べることにした。そのためにまず、生殖腺が未分化状態である前期、未分化生殖腺から精巣または卵巣への分化中である中期、精巣および卵巣の発達過程である後期のそれぞれの発生ステージについて調べた。これまで、卵核二倍体(XX雌幼生集団)の卵巣分化過程を組織学的に調べたが、今回は自然な卵巣分化過程をより再現していると考えられるXX雌幼生集団をXX雄とXX雌の人工交配により作製し、卵巣分化過程を組織学的に調べた。その結果をXY雄幼生集団の精巣分化過程と比較して性分化前期および中期、後期を決定し、それぞれの時期にある生殖腺から全RNAを精製した。現在、RNA-seq解析を行っている。 また、これまでの全雄集団個体に加えて、今年度は性転換個体や全雌集団個体の正常な繁殖力を確認した。従って、性転換個体を用いた全雄集団や全雌集団の持続的作製が可能であり、効率的で倫理的にも配慮された系統維持の方法として、他の動物種でも応用可能であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度の予定として、「①ゲノム解析結果について、CLC Genomics Workbenchシステムを用いた雌雄間の詳細な解析」「②もどし交配集団(XX雌およびXY雄、YY超雄混在集団)からのYY超雄の単離」「③XX雄を用いた人工交配によるXX雌幼生集団の作製および卵巣分化の組織学的解析」「④XY雄幼生集団とXX雌幼生集団の生殖腺分化過程のRNA-seq解析」の4項目について計画していた。 上記の①および②、③はすでに終えている。④については、生殖腺分化過程の組織学的解析を行い、RNA-seq解析を行う発生ステージ(生殖腺の性分化前期、中期、後期)を決定済みであり、解析用の全RNAも調整済みである。RNA-seq解析用データ取得についても依頼済みである。従って、昨年度に予定した計画の多くは実施済みである。さらに、今年度は性転換個体や全雌集団個体の繁殖力についても解析した。しかし、当初の計画では今年度に雄決定候補遺伝子のゲノム編集を行うことになっていたことから、全体から見た進行具合は「遅れている」という評価である。
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今後の研究の推進方策 |
依頼してある精巣分化過程と卵巣分化過程のRNA-seq解析用データが得られた後に、当センターで利用できるCLC Genomics Workbenchシステムを用いてデータ解析を行う。精巣分化過程において発現している遺伝子と卵巣分化過程において発現している遺伝子を比較し、精巣分化過程において特異的に発現している遺伝子を探索する。それら精巣分化特異的遺伝子の塩基配列をゲノム解析結果と照らし合わせ、雄ゲノムにのみコードされている、もしくは雌ゲノムにおいて変異が見られるなどの遺伝子を選び出し、雄決定遺伝子の候補とする。次に、YY超雄とXX雌の交配によって得られるXY雄集団の受精卵を用いて雄決定候補遺伝子のノックアウトを行い、変態期まで飼育する。雄決定遺伝子はY染色体のみに存在すると考えられることから、F0においてノックアウトの影響が表れると考えている。そこで、変態期の生殖腺を組織学的に解析し、精巣形成が見られない、もしくは卵巣形成が見られる個体を調べる。そのノックアウトした遺伝子を雄決定候補遺伝子として絞り込む。一方、XX雄とXX雌の交配によって得られるXX雌集団の受精卵を用いて雄決定候補遺伝子のトランスジェネシスを行い、変態期まで飼育する。変態期の生殖腺を組織学的に解析し、卵巣形成が見られない、もしくは精巣形成が見られる個体を調べる。そのトランスジェネシスした遺伝子を雄決定候補遺伝子として絞り込む。それぞれ絞り込んだ候補遺伝子の中で、共通する遺伝子を雄決定遺伝子として同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
YY超雄の選別やRNA-seq解析ステージの決定のためには幼生を飼育する必要があり、それらの飼育期間が予定よりも長期間になってしまったため、RNA-seq解析用データ取得の依頼が遅れてしまった。さらに新型コロナの影響により、依頼した会社から海外へのサンプルの発送が今年度中に行われなかった。また、当初の研究実施計画では、今年度にゲノム編集を行う予定であったが、全体的な実施の遅れから次年度に行うことになった。それに伴い、研究成果の学会発表や専門誌での論文発表の遅れも生じている。以上により、次年度使用額が生じてしまった。 次年度は、RNA-seqのデータ解析および性決定候補遺伝子をターゲットとしたゲノム編集や生殖腺の組織学的解析を行う予定である。また、これまでに得られた研究成果に関して、学会発表および専門誌での論文発表を予定している。従って、各費目に関して次のように使用する計画である。①消耗品に関しては、ゲノム編集などの分子生物学的解析や組織学的解析を行うために多くのキットおよび薬品、ディスポーザブルの実験器具、ガラス器具等が必要になる。また、両生類の飼育も行うために、飼育ケース、餌等が必要になる。②旅費に関しては、国内学会で発表するための交通費および宿泊費が必要になる。③その他に関しては、専門誌に研究成果を発表するための英文校閲料および論文別刷代が必要になる。
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