研究課題
MIBP1(HIVEP2)遺伝子はDNA結合ドメインとしてZincフィンガーを持つ巨大転写因子をコードしている。これまでの研究で、脳機能の成熟にMIBP1タンパク質が重要な役割を果たしていると考えられるが、詳細は解明されていない。MIBP1タンパク質の結合配列がNFkB応答配列に類似しているということを我々および複数グループが報告しているが、別の配列に結合するという報告もあり、その遺伝子発現に及ぼす効果も様々である。この転写因子のDNA結合部位をクロマチン免疫沈降―シーケンス(ChIP-seq)などにより決定したいと考えているが、適切な抗体は得られていない。そこで、DNA結合タンパク質にエピトープタグを挿入し、それを利用してChIP-seqを行うCETCh-seq法のベクター系を利用した。この方法は、内在性タンパク質にタグを導入するので、過剰発現系に比べより生理的条件におけるタンパク質の機能解析に役立つと考えられる。本年度は前年度に引き続きゲノム編集によりMIBP1遺伝子の片側のアレルに FLAGタグ配列を挿入した大腸がん由来のHCT116-M15細胞の解析を行った。 この細胞は全長約270 kDのMIBP1-FLAG融合タンパク質を発現しており、その発現はTNF-α処理により上昇した。このタンパク質のDNA結合活性について検討を行った。また、最近の報告でMIBP1(HIVEP2)タンパク質がドーパミン輸送体遺伝子であるSLC3Aのプロモーターに結合するという報告もあるため、ドーパミンニューロンの分化モデルとして使われるヒト神経芽細胞腫由来SH-SY5Y細胞におけるMIBP1の発現解析を行った。
3: やや遅れている
クロマチン免疫沈降―シーケンスに進む前に、より低コストで実現できるゲルシフトアッセイを行ってMIBP1-FLAGタンパク質のDNA結合活性を検証しようとしたが、新型コロナウイルス感染症による影響で研究活動が当初の計画通りに進まなかった。
ゲノム編集により転写因子MIBP1の末端にFLAGエピトープタグがノックインされた細胞を用いてMIBP1タンパク質が結合するDNA配列の探索を行う。当初はFLAG抗体を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)を行い、次に超並列型シーケンサーを用いてChIPにより回収されたDNAの配列解析を行うChIPシーケンスを計画していたが、より微量なタンパク質についてDNAとの相互作用を検討することが可能なCUT&RUNシステムの採用も検討する。また、あらたに神経系の細胞であるSH-SY5Y細胞を用いて同様の実験を行う予定である。これによりMIBP1タンパク質が結合する遺伝子群を同定し、同タンパク質が関与すると考えられる神経分化などにおける動態を検討する。
新型コロナウイルス感染症の影響で遠隔授業を行う必要があり、講義のオンライン化などに時間を要した。そのため、実験条件の検討などを十分に行うことができなかった。また、実験の外部委託も困難な状況であった。本年度は実験条件の検討を行ったうえで、シーケンスなど一部の実験は外部に委託する予定である。
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Anticancer Research
巻: 40 ページ: 5399-5404
10.21873/anticanres.14548