研究課題
本研究計画では、ハイブリッドな遺伝的背景をもつマウスES細胞を用い、アレル別発現プロファイル、3C解析データと種々のエピゲノム解析により得た配列情報を統合解析することにより、アレル特異的なクロマチン高次構造やオープンクロマチン領域の網羅化、さらにインプリント遺伝子ドメインと相互作用するゲノム領域をアレル別に同定する。本年度はまず、複数のF1 ES細胞株についてFAIRE-seqによるアレル別オープンクロマチン領域の網羅化を試みた。アレル別シークエンスデータの解析にはSNPsplitソフトウェアを用い、既知のインプリント遺伝子領域の一部で、片アレル型オープンクロマチン領域の存在を確認するとともに、片アレル型のオープンクロマチン領域をそれぞれ6000程度、両アレル型オープンクロマチン領域を3000程度同定した。片アレル型オープンクロマチン領域には、CTCF、CTCF-Lなどのインスレーターを主とする結合モチーフが集中していたのに対し、両アレル型オープンクロマチン領域にはプロモーターを示すモチーフが集中していた。これは、ChIP-seqデータからも同様の傾向がみとめられ、片アレル型オープンクロマチン領域にはCTCFが、両アレル型オープンクロマチン領域にはH3K4me3やRNA Pol IIがよりenrichしていた。CEASソフトウェアにより、各オープンクロマチンのゲノム内分布を解析したところ、片アレル型と両アレル型のオープンクロマチン領域は異なった分布様式を示し、両アレル型オープンクロマチンは活性型のプロモーターを主としているのに対し、片アレル型オープンクロマチンは主にintergenic regionあるいはイントロンに分布しており、エンハンサーあるいはインスレーターといった制御領域を形成しているのではないかと考えられた。現在、同細胞を用いたRNA-seqを進めている。
2: おおむね順調に進展している
解析モデルとして、C57BL/6(以下 B6)・JF1系統マウス間F1ハイブリッド胚由来ES細胞をすでに複数樹立しており、それぞれからFAIRE-seqによりオープンクロマチン領域を同定した。RNA-seqデータの解析は途中段階なものの、本研究において非常に重要な技術であるアレル別シークエンスデータの解析法として準備していたSNPsplitソフトウェアが機能している点で、今後の解析への不安は解消されている。
29年度にひきつづき、インプリント遺伝子について、アレル特異的なクロマチン高次構造やオープンクロマチン領域の網羅化、およびインプリント遺伝子ドメインと相互作用するゲノム領域をアレル別に同定するため、プロモーター領域の濃縮過程を含むCapture Hi-C (CHi-C)法を新たに確立し用いる。これらにより、インプリント遺伝子発現に関わるシスエレメントの網羅化を行う。得られた諸情報はバイオインフォマティックな解析により統合し、個別解析可能な規模の対象シスエレメントを絞り込む。
Hi-C法によるゲノム解析は、数百万の遺伝子座についての相互作用を同時に評価する。本課題においては、全ゲノムの~1%にすぎないインプリント遺伝子座をターゲットとするため、プロモーター領域の濃縮過程を含むCapture Hi-C (CHi-C)法を新たに確立し用いる予定である。CHi-Cでは、シークエンスライブラリー作製時、標的領域である非コードRNAを含む全プロモーターをキャプチャーするためのビオチン付加プローブを必要とする。プローブは現在設計中であるが、既製品ではなくカスタムでの発注になるため、100万円以上の出費を予定しており、30年度にはHi-C関連試薬を揃えつつ、このプローブの発注を行うため次年度使用額が生じることとなった。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Journal of Medical Genetics
巻: 54 ページ: 836-842
10.1136/jmedgenet-2017-104854