研究実績の概要 |
【背景】monogenic diabetesは肥満を伴わず、膵自己抗体陰性で環境要因に関係なく30歳未満で発症する糖尿病である。その中では常染色体優性遺伝若年発症糖尿病:MODY(maturity onset diabetes of the young)が大部分を占める。MODYの頻度は、英国では30歳未満で糖尿病と診断された全患者の4%であった(Shields, 2017)が、一般には糖尿病全体の1-2%と報告されている。従って、わが国では11万人程度と推定されているが、多くの場合は1型糖尿病や2型糖尿病として治療されている。欧州ではMODYの80%で原因遺伝子が同定されており、個別化医療のガイドラインが公表された。一方、わが国では原因遺伝子が明らかにされたMODYは約20%に過ぎず、個別化医療のシステムも整備されていない。 【目的】1種類の原因遺伝子によって発症する糖尿病(monogenic diabetes)の原因遺伝子を網羅的に明らかにし、個別化医療の推進に寄与すること。 【実施概要】<第1ステップ>充分にvalidationされたサンプル100例程度を選択し、13種類のMODY遺伝子をターゲットシーケンスにより解析する。シークエンサーは設置済み。カスタムプラーマ―もオーダー済みであり、第1ステップは1年以内に完了予定である。学内の支援システム(TIIMS)を利用してPoly Phen, SIFT, CADDに代表されるアルゴリズムにより変異の機能障害レベルを推定する。判定不能の場合やpromoter領域の変異/多型は、INS-1細胞を用いた細胞レベルでの機能解析を行う。<第2ステップ>上記で変異が同定できなかった症例についてwhole exome sequenceを行う。家系内の複数のaffected memberのDNAを収集できている家系を優先する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、MODY14遺伝子に絞ってカスタムプライマーを作成し、Miseqを用いてターゲットシーケンスを行った。予算の関係から最終的にサンプル数は48検体とした。スクリーニングに用いた遺伝子のリストはHNF4A, GCK, HNF1A, PDX1, HNF1B, NEUROD1, KLF11, CEL, PAX4, INS, BLK11, ABCC8, KCNJ11, RFX6である。現時点でシーケンシングは順調に完了できており、得られた全アウトプットデータのうち、翻訳領域に存在する塩基置換は874種類であった(ナンセンス変異2種類、ミスセンス変異386種類、サイレント置換486種類)。絞り込み作業の第1段階として、1000人ゲノムデータ、PolyPhen、SIFT、CADD、ClinVer、gnomADなどのデータベースおよびアルゴリズムを用いてスクリ―ニングを行った。その結果、病因と考えられる変異はHNF1B, NEUROD1, KLF11, BLK11の4遺伝子を除いた残る10遺伝子内の26種類に絞られた。2種類はナンセンス変異であることから明らかに原因遺伝子と考えられた(1種類は新規変異)。26種類のミスセンス置換のうち、4種類は以上の検討から病的変異と断定できた。以上から、48名の発端者のうち8名(16.7%)において病因と考えられる変異を同定できている。24種類のミスセンス変異に関しては家系内での伝達についてサンガーで確認を行う必要がある。興味深い点として、現時点で7名の発端者においては2種類から最大4種類の病的変異の可能性が否定できないミスセンス変異が異なるMODY遺伝子に見出されている。このような結果は、従来のサンガー法による1種類の遺伝子毎の検討では見つかり難かったと思われる。真の原因遺伝子がどれであるかを、今後明らかにする。
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