研究課題/領域番号 |
17K07259
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
渡部 隆義 千葉県がんセンター(研究所), がん遺伝創薬研究室, 研究員 (60526060)
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研究分担者 |
篠崎 喜脩 千葉県がんセンター(研究所), がん治療開発グループ, 博士研究員 (00766553)
高取 敦志 千葉県がんセンター(研究所), がん治療開発グループ, 研究員 (40455390)
越川 信子 千葉県がんセンター(研究所), がん遺伝創薬研究室, 主席研究員 (90260249)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | KR12 / 膵臓がん |
研究実績の概要 |
本年度は先ずKR12による腫瘍組織の病理学的検査を検討した。腫瘍組織をHE染色で確認したところ、DMSO群の膵臓では主に増殖したがん細胞と著しい線維化が認められ、また、異型腺細胞と膵管内上皮病変や進行性の膵炎も観察された。一方、KR12投与群では、非腫瘍性の膵腺房細胞やランゲルハンス島が広く認められ、KR12により膵機能が維持され生存日数が延長したとの知見が得られた。加えて膵臓以外の他の器官での病理学的検査では異常を観察しなかった。これらの知見はKR12による副作用が低いことを示唆している。 次にKR12投与後の膵臓機能と肝機能を検討するために血液生化学検査を行った。コントロールマウスと腫瘍を形成するPKFマウスにKR12およびDMSOを投与し、3日後にサンプル採取を行い検査したところ、KR12またはDMSO投与での有意な差は示されなかったことからKR12による膵機能及び肝機能に影響が少ないため生存延長の効果が得られたと考えられた。 次にヒト膵癌細胞株にKR12を処理し、細胞生存についてWST法による検討を行った。使用した細胞はKR12認識配列を持つKP4と、KR12認識配列を持たないMIA Paca-2を使用した。IC50は、それぞれ49.9nM, 3.6 nMで、KP4で細胞増殖抑制効果が高いことが示された。 さらにKP4細胞株におけるKRASタンパク質の発現をウェスタンブロット法により検討したところ、KR12、30nMの濃度においてKRASタンパク質の発現が抑制された。 最後にKP4細胞のゼノグラフトモデル実験を行った。KP4細胞を移植した異種移植マウスにKR12を3㎎/kg投与し週1回ずつ2回に渡り投与した所、コントロールのDMSO投与群に比べ有意に腫瘍の増殖抑制効果が認められた。以上の結果から、ヒト膵腺管がん細胞においてもKR12による抗腫瘍効果が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はKR12の膵がんに対する治療薬となるかどうか最も重要なKRAS変異陽性ヒトPDCA細胞に対する抗腫瘍効果を検討した。その結果、予備試験で得られたマウスPDAC細胞であるK399やK375に対する抗腫瘍効果と同様な抗腫瘍効果を得ることが出来たのは非常に有意義であった。しかし、マイクロアレイ解析によるKR12のKRAS以外の他の遺伝子の発現制御についての検討が終了していないため早急に進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究により、KR12がマウスの膵腺管がん癌細胞に対する抗腫瘍効果と同様にヒト膵腺管がんに対する抗腫瘍効果を細胞および動物実験レベルで確認出来た。 平成30年度はKP4以外のヒト膵腺管がん癌細胞を移植した担癌マウスにおけるKR12の抗腫瘍効果を検証するその際、投与方法、投与量、投与スケジュール等を詳細に検討し効果的な投与スキームの最適化を図る。 平成31年度は膵腺管がん細胞内や担癌マウス内におけるKR12 の結合部位を同定しKR12 がゲノム中のどの部位に結合しているかを検証する。そのため、ビオチン標識化KR12 を合成し、これを感受性のある各PDAC 細胞に処理し、全ゲノムを回収する。これらのサンプルについて次世代シークエンサーによる全ゲノム解析を行い、結合部位を同定するChem-Seq 法を行う。 以上のChem-Seq の結果及びマイクロアレイの結果を比較し、PDAC においてKR12 がどのような遺伝子シグナルを制御することで抗腫瘍効果を発揮しているのかを予測、検証し、今後の創薬開発に必要な非臨床POC を取得する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究に必要な試薬や物品の購入の総額および旅費を計算した結果、31,852円の差額が生じたため、来年度の研究に必要な物品の購入資金としてこれを活用する。
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