研究課題/領域番号 |
17K07261
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
高橋 宏隆 愛媛大学, プロテオサイエンスセンター, 講師 (70432804)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 脱ユビキチン化酵素 / ユビキチン鎖特異性 / コムギ無細胞タンパク質合成 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、既に本研究室が保有する60種類のDUBについて、組換えタンパク質を作製し、市販の8種類の2量体ユビキチン(Di-Ub)をモデル基質として切断アッセイを行い、各々のDUBの特異性を明らかにすることを目標としていた。実際には、上記の60種類に加えて25種類のDUBを新たに組換えタンパク質として合成することに成功したため、当初の予定を上回る85種類のDUBについて全長の組換えタンパク質を用いて基質特異性解析を行った。 その結果、77種類のDUBにおいて、少なくとも1種類のDi-Ubに対して切断活性が認められた。また、今回用いたDUBの中にはOTULIN, OTUB1, OTUD7Bなど、1種類のユビキチン鎖のみに厳密な特異性を示すことが報告されているDUBが含まれていたが、今回の基質特異性解析でも報告通りの特異性を示す結果が得られた。一方、USP5やUSP15など、8種類全てのユビキチン鎖を切断することが既報のDUBについても、報告と同様の結果が得られた。これらのことから、本アッセイ系は組換えDUBの活性や基質特異性を正確にモニタリングできる信頼性の高いアッセイ系であることが示された。これまでに、DUBの生化学的解析では、最多で30種類程度のDUBの活性を報告した例があるが、その中には全長タンパク質ではなく、酵素活性ドメインのみのDUBも含まれる他、タンパク質発現系やタグがそれぞれのタンパク質で異なっていた。しかし、本研究ではヒトゲノム中に95種類存在するDUBのうち、約90%を占める85種類を解析対象とし、単一のタンパク質発現系とアッセイ系を用いた解析によって、77種類の全長フォームのDUBの活性を得ることに成功した。これらのDUBの中には、これまで基質特異性が未解明のDUBも数多く含まれ、これらの研究成果はDUBの研究において大きく貢献するものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度は、解析対象とするDUBは60種類程度に目標設定していたが、それ以外のDUB遺伝子のサブクローニングが予想以上に速やかに終わり、新たに25種類を加えることができた。そのため、当初はヒトの全DUBの約6割程度のDUBを解析対象としていたが、実際には9割を網羅することができた。また、解析対象とした85種類全てのDUBについて、Di-Ubを用いた特異性解析が完了し、当初の予想を大きく上回る77種類について活性を検出することができた。そのため、平成30年度以降に未解析だったDUBについてサブクローニング・タンパク質発現確認ならびに基質特異性解析を行う計画であったが、当初その数は30種類程度を予定していたが、実際には10種類程度と大幅に減少した。さらに、活性が得られなかった8種類を見出していることから、平成30年度以降にこれらのDUBについて他のアッセイを用いて活性の有無の確認を行う計画が速やかに遂行可能となった。このように、平成29年度は当初の計画以上に進展しており、平成30年以降の計画がスムーズかつその規模を大幅に拡大して遂行できると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年以降は、以下の実験を計画している。 1. 未解析DUBの基質特異性解析・・平成29年度に解析できなかった10種類について、組換えタンパク質を作製し、解析済みの85種類のDUBと同様にDi-Ubを用いた基質特異性解析を行う。また、2018年1月に開催されたKeystone ubiquitin国際学会で、既報の95種類のDUB以外にDUB活性を有するタンパク質が複数存在することが報告された。そこで、これらのタンパク質についても解析対象とする。 2. 活性が認められなかったDUBの検証・・これまで解析を行ったDUBのうち、8種類で活性が検出されなかった。これらについて、精製方法やアッセイ方法を変えてアッセイを行う。また、いくつかのDUBはDi-Ubを基質とできず、4量体以上のユビキチン鎖に活性を示すものも報告されており、Di-Ubを用いた切断アッセイで活性が認められなかったDUBについて、4量体ユビキチンを用いた切断アッセイを行う。 3. USPファミリーDUBによる直鎖型ユビキチン鎖認識について・・今回解析を行ったDUBのうちUSPファミリーに属するDUBは52種類含まれていた。USPファミリーの多くのDUBは基質特異性がなく、ほぼ全てのユビキチン鎖を切断されることが報告されている。実際に本研究においても、イソペプチド結合で形成される7種類のDi-Ubはほぼ全てのUSPが切断活性を示したものの、直鎖型Di-Ubは切断できるUSPが10 種類程度に限定されていた。そこで、このUSPファミリーDUBによる直鎖型ユビキチン鎖切断活性の有無について、その詳細な分子メカニズムを、連携研究者の産業技術総合研究所の富井先生、今井先生によるインフォマティクス解析も駆使し、解明していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、ユビキチン鎖切断アッセイの条件検討にかかる試薬や消耗品代として物品費を1,200千円を計上していたが、条件検討が予想よりも早くに完了し、速やかに切断アッセイを遂行することができ、結果が順調であったことから再試も大幅に省略できたために、支出を大幅に減らすことができた。この予算を繰越すことで、次年度に計画している個々のDUBの詳細な解析や、その他の高次解析についてそれらの規模を拡充して行うための予算として充てることにした。
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