本研究では、約100種類存在するヒトの脱ユビキチン化酵素(DUB)について、そのほぼ全てを組換えタンパク質を作製し、市販の8種類の2量体ユビキチン(di-Ub)をモデル基質として切断アッセイを行い、各々のDUBの基質特異性を明らかにすることを目的とする。平成31年度はこれまで合成に失敗したDUBや、活性が認められなかったDUB合計10種類について、組換えタンパク質の発現条件の最適化などを行い、それらの活性検出を行った。 その結果、研究期間全体を通じて、90種類のDUBの合成に成功し、このうち80種類の活性の有無やdi-Ub特異性を決定した。このようにヒトのDUBの80%以上について活性を報告した例は、国内外を通じて本研究が初めてである。また、広範な基質特異性を示すUSPファミリーにおいて、活性型の52種類のうち、直鎖状ユビキチン鎖(M1鎖)を切断したものは10種類程度で、USP以外のDUBでM1鎖を切断したものはOTULINのみであった。これはDUBの多くが、ユビキチン間のイソペプチド結合に高い親和性を示し、M1鎖のペプチド結合への親和性が低いことを示唆している。現在、連携研究者の産業技術総合研究所の富井先生、今井先生によるインフォマティクス解析を基盤に、切断活性の有無に関わる領域の特定を進めている。 また、DUBは様々な疾患に関与することから、近年新たな創薬ターゲットとして注目されており、特定のDUBのみを特異的に阻害する低分子化合物の開発が進められている。昨年度より、定量性が高く、低分子化合物の干渉を受けにくいアッセイ系であるAlphaScreenを用いて、化合物のDUB活性阻害の評価を試みた。これまでに、約40種類のDUBによる阻害剤の特異性評価に成功している。現在、基質の改良等を行っており、さらに多くのDUBを用いて阻害剤評価が可能な系の構築を目指す。
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