研究課題/領域番号 |
17K07263
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
小西 裕之 愛知医科大学, 医学部, 教授 (20344335)
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研究分担者 |
兵頭 寿典 愛知医科大学, 医学部, 講師 (40710645)
シバスンダラン カルナン 愛知医科大学, 医学部, 講師 (30557096) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / CRISPR / Cas9 / nickase / ノックイン / ニック |
研究実績の概要 |
昨年度までに、Cas9 nickaseを通常と違う使い方(TPN法)で用いることによって、従来のDNA二重鎖切断を介する方法と遜色ない効率でノックインを実施できることを示してきた。ただし、これはPIGA遺伝子またはCD55遺伝子のアッセイ系を用いた場合のことであり、ゲノムに挿入したEGFP遺伝子の変異を修正するアッセイ系では、DNA二重鎖切断を介する従来法のノックイン効率の方が有意に高かった。 本年度は、EGFP遺伝子における実験結果がなぜ他と異なるかを探るため各種検討を行った。その一環として、PIGA遺伝子の変異を修正するアッセイ系においてドナーDNAの長さを2 kbから0.6 kbに短縮したところ、従来法によるノックイン効率には有意な低下が見られなかったのに対し、TPN法によるノックイン効率は顕著な低下を示した。このことから、TPN法で高いノックイン効率を達成するためには、十分なドナーDNAサイズの確保が重要であることが示唆された。 また、TPN法と同じ組合せのCas9 nickaseを細胞に導入した後、標的ゲノム部位を蛍光PCRで増幅し、キャピラリー泳動を行い、サイズが設定と違うPCR産物の割合からindelsの発生率を決定した。その結果、TPN法のCas9 nickaseの使い方ではDNA二重鎖切断は誘起されず、有意なindelsも発生しないことが確認された。 プラスミドは通常、核より細胞質に局在する。しかしTPN法によるノックインの仕組みが我々の考える通りなら、Cas9 nickaseによってドナープラスミドにニックが導入されねばならない。プラスミドへのニック導入を確認するため、重複のある2個のEGFP遺伝子断片の間にPIGA遺伝子またはCD55遺伝子の編集局所の配列を挿入したプラスミドを作製し、Cas9 nickaseとともに細胞に導入した。その結果、相補的なニックを挿入するnickase pairを導入した時のみEGFP遺伝子の組換えが観察されたことから、Cas9 nickaseが想定通りプラスミドにニックを導入していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、これまでに、2個のCas9 nickaseを標的配列がゲノムとドナーDNAの相同領域内に位置するように(すなわち2個のCas9 nickaseがゲノムとドナーDNAに計4個のニックを導入するように)設計することによって、Cas9 nucleaseを使う従来の方法に比肩する高い効率でノックインを行いうること、さらに予期せぬランダムなゲノム異常(indels)を従来法の6%未満に抑制できることを示してきた。また、このノックイン法(tandem paired nicking法;TPN法)は、DNA二重鎖切断を誘発しないためp53シグナル経路を活性化することはなく、したがってp53活性による細胞周期のG1期停止とそれに続くDNA相同組換え(ノックイン)の阻害を免れることを実験的に証明した。 同じ分野における他グループの研究の進捗状況等を勘案し、以上のデータを得た時点で知見をまとめて論文発表することにした。論文発表の過程で、学術雑誌への投稿および査読者のコメントに対応するための追加実験や修正を複数回繰り返す必要があり、それに予想外の時間を消費することとなった。そのため、当研究で計画していた実験項目の一部に未実施のものが残った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は未実施の計画部分に取り組むことで、我々がこれまで特性評価を行ってきたTPN法のノックインについてさらに理解を深めたい。特に、TPN法で導入する合計4個のニックはそれぞれどういう役割を担っているのか、本当に4個も必要なのかを検証することは、TPN法によるノックインのメカニズムを考えるうえで興味深い示唆を与えると思われる。したがって、4個のうち1個、2個、3個のニックが導入不可となるよう系統的にドナーDNAに変異を導入し、それぞれの条件におけるノックイン効率を評価する実験を優先的に行う予定である。 さらに将来的には、TPN法のノックインに関する研究を多角的に展開することで、この新しいゲノム編集方法に対する解明を進めたいと考えている。また、TPN法の分子ツールの細胞内導入に工夫を凝らし、前臨床研究を進めることによって同法の医療応用に道を開くことを目指す。それと同時に、TPN法の有用性を研究コミュニティに知らしめるため、今後とも取得したデータを学会や誌面で積極的に発信していく方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】 本年度は論文投稿に係る原稿執筆、校正や査読意見に対応した改訂などに多くの時間を費やした。そのため、本研究のエフォートにおいて実験が占める割合は他の年度より小さく、その分研究費の使用額も少なかったと考えられる。また本年度の実験では、昨年度までに確立したPIGA遺伝子、CD55遺伝子のアッセイ系を主に使用した。そのため、アッセイ系樹立に係る試行錯誤等なく実験を遂行することができ、必要とした消耗品費は比較的少額だったと考えられる。 【使用計画】 次年度はnickaseの標的部位に対応するドナーDNAの配列を変異させ、多数の変異ドナーDNAを作製してトランスフェクション実験に用いる予定である。相当量の分子生物学的実験(プラスミド作製等)と細胞培養実験(トランスフェクションとノックイン効率測定)を行うことになる。そのため、必要なマンパワーを確保する必要があり、(新型コロナウイルスに係る社会状況や所属大学の指針が許す限り)実験補助員を1名、1年間雇用する予定である。また、大量の細胞の個数を血球計算盤を用いて手計算で調べるのをやめ、新たに自動細胞カウンターを購入し、それを利用して実験を行う予定である。以上のことに必要な謝金(実験補助員)、設備備品費(細胞カウンター)、および消耗品費(実験全般)を次年度使用額から支出する予定としている。
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