研究課題
本研究は、栄養シグナルに依存したlncRNAによる代謝調節とそれに応答した細胞機能制御の分子機構を解明することを目的としている。本研究では、申請者が発見したlncRNA-FR1による①代謝関連遺伝子の発現制御、②代謝調節の分子機構、③代謝調節に応答した細胞機能制御といった3項目に関連した問題点に取り組むことで目的達成を目指している。平成30年度は、lncRNA-FR1による代謝調節の分子機構について明らかにするために、lncRNA-FR1によるCATXのアミノ酸トランスポーター活性の変化とそれに伴う細胞内の代謝物の変化について解析を行った。まず、lncRNA-FR1によるCATXのアミノ酸トランスポーター活性の変化について検証を行ったところ、CRISPRiでlncRNA-FR1を機能抑制させた肝細胞では、細胞内へのアルギニンの取り込みが減少しており、CATXのアミノ酸トランスポーター活性の低下が観察された。細胞内に取り込まれたアルギニンは、尿素回路の中間代謝物や糖原性アミノ酸として糖新生の基質として利用される。そこで、lncRNA-FR1を機能抑制させた肝細胞での尿素産生や糖産生の変化について検討したところ、コントロール細胞に比べてlncRNA-FR1機能抑制細胞では尿素産生や糖産生が減少していた。これらの結果から、lncRNA-FR1は、遺伝子転写促進を介してCATXのアミノ酸トランスポーター活性を亢進し、細胞内へのアルギニンの取り込みを増加させることで、細胞内の尿素回路や糖新生といった代謝を調節することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度は、計画通り研究が進展し、①lncRNA-FR1がCATX遺伝子転写促進を介して、そのアミノ酸トランスポーター活性を亢進し、細胞内へのアルギニンの取り込みを増加させること、②lncRNA-FR1が、CATXのアルギニン取り込み制御を介して細胞内の尿素回路や糖新生といった代謝を制御することを明らかにすることが出来た。これらの結果から、おおむね順調に進展しているという判断に至った。
基本的には、当初の計画に則って研究を推進していく予定である。また、lncRNA-FR1による代謝調節が、どのように細胞機能を制御しているのかをmTORC1の活性の変化とそれに伴う細胞機能の変化を解析することで明らかにしていく予定である。さらに、これまでの研究成果からlncRNA-FR1がCATXの他に複数のアミノ酸代謝酵素の遺伝子転写の促進にも関わることを明らかになってきた。今後は、lncRNA-FR1がアミノ酸代謝酵素遺伝子群の転写を促進することで、どのように代謝を調節し、細胞機能を制御しているのかについても検討を実施していく予定である。
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Scientific Reports
巻: 8 ページ: 14290-14305
10.1038/s41598-018-32575-z