本研究は、栄養シグナルに依存したlncRNAによる代謝調節とそれに応答した細胞機能制御の分子機構を解明することを目的としている。本研究では、申請者が発見したlncRNA-FR1による①代謝関連遺伝子の発現制御、②代謝調節の分子機構、③代謝調節に応答した細胞機能制御といった3項目に関連した問題点に取り組むことで目的達成を目指している。 令和元年度は、まずlncRNA-FR1によるアルギニンの取り込みを介した栄養感知因子mTORC1の活性調節と細胞増殖機能の制御について検討した。lncRNA-FR1機能抑制肝細胞では、コントロール肝細胞に比べてmTORC1の活性化を反映しているS6タンパク質のリン酸化が減弱しており、また細胞増殖の機能も減弱していた。これらの結果から、lncRNA-FR1は細胞内へのアルギニンの取り込みを制御することでmTORC1の活性を調節し、細胞増殖機能に関与することが明らかになった。次に、lncRNA-FR1による複数のアミノ酸代謝酵素遺伝子の転写活性化を介した代謝調節への役割について検討したところ、lncRNA-FR1はアミノ酸代謝酵素遺伝子の転写を活性化することでアミノ酸の基質としての利用を促進し、糖新生の亢進に関与することが示された。さらに、lncRNA-FR1による複数のアミノ酸代謝酵素遺伝子の転写促進に関する作用機序を検討したところ、lncRNA-FR1はアミノ酸代謝酵素遺伝子上の転写活性化マークであるヒストンアセチル化修飾を促進させることでこれら遺伝子の転写を活性化していることが明らかになった。
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