研究課題/領域番号 |
17K07268
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研究機関 | 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 |
研究代表者 |
水口 賢司 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 バイオインフォマティクスプロジェクト, プロジェクトリーダー (50450896)
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研究分担者 |
伊藤 眞里 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 バイオインフォマティクスプロジェクト, 上席研究員 (50728102)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | トランスオミックス解析 / 代謝物情報 / 統合データベース / KEGGパスウェイ / エンリッチメント解析 |
研究実績の概要 |
近年、次世代シークエンサーや質量分析器などの技術の進歩により、遺伝子、タンパク質、代謝物などの網羅的解析(オミックス)によるビッグデータが蓄積 しはじめた。創薬ターゲットの探索や病態解析においてもこれらの情報を統合して多面的に解析するマルチオミックス解析の必要性が増している。報告者らが開発したTargetMineは、国際的に広く使用されている50個以上の公共データベースのデータを統合し、タンパク質立体構造や医薬品関係データ、転写因子とその作 用遺伝子の関係等の情報の統合的検索が可能な創薬支援ツールである。このシステムを利用して、複数の候補遺伝子または候補タンパク質から、特定の機能や疾 患との関連性を有する遺伝子又はタンパク質を絞り込むことができる。しかし、上述のマルチオミックス解析を可能にするためには、代謝物情報のマイニング機 能を導入して、遺伝子、タンパク質、代謝物の網羅的情報から、それらの相互関係、制御関係を導き出せる機能を付与する必要がある。今年度は、昨年度実施したTargetMineへの代謝物情報のマイニング機能に加えて、より大量の情報を速く扱えるように、TargetMineをプログラミングで操作しつつ、そのデータの扱いを補助するスクリプトを作成することで、各種オミックスデータの可視化・解析の簡便化に成功した。このことにより、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームデータの各種統計解析や代謝パスウェイ上へのマッピングが可能となった。今後は、タンパク質間相互作用予測をもとにした現実的なシグナルネットワークの再構築やマルチターゲットに対応するシミュレーション機能の構築を目指す。将来的には人工知能を活用した創薬標的の探索・同定手法の技術基盤となるべき次世代シミュレーションプラットフォームを構築する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的を達成するために、①現実的なシグナルネットワークの再構築、②代謝物情報のマイニング機能を加えたトランスオミックスプラットフォームと しての階層拡充、③マルチターゲットに対するシグナル伝達シミュレーション能力付与を行う計画である。この計画に照らし、まず、KEGGなどライフサイエンスのデータベースに含まれる化合物情報を統合データベースのTargetMineへ取り込み、他のデータとの統合、さらには、代謝物情報をマイニングして、エンリッチ メント解析をはじめとする各種統計解析が行えるようにした。また、本研究計画中の②の代謝物情報のマイニング機能を加えたトランスオミックスプラットフォームとしての階層拡充の項目をほぼ完成することができた。さらに今年度は、より大量の情報を速く扱えるように、TargetMineをプログラミングで操作しつつ、そのデータの扱いを補助するスクリプトを作成することで、オミックスデータの可視化・解析の簡便化に成功した。このことにより、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームデータの各種統計解析や代謝パスウェイ上へのマッピングが可能となり、③に関する基盤的な技術が構築できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今期に構築した三層データの解析ツールを種々のデータを用いて検証を行うとともに、当初計画の①現実的なシグナルネットワークの再構築、に注力する。すなわち、KEGG上のパスウェイを反応経路ごとに分割し、上述の各種実測・予測スコアを集積する。それら数値を入力とする機械学習モデルなどで、各反応経路の確度(現実の生体機能への寄与度)分類を行う。まず炎症パスウェイ等実験データが豊富な分野において、分割した反応経路部分の現実性の濃淡をマニュアルで分類して教師データとする。確度分類スコアのカットオフ値の設定等により自動化して、KEGGパスウェイ全体に適応する。こうして現実化した反応経路を用いて、パスウェイの再構築を行い、以後の予測、シミュレーション段階へつなげる。さらに上記①で確度分類により再構築したシグナル伝達経路を用いて、ターゲットへの作用点から生体応答を予測するモデルを構築する。すなわちパスウェイ上のある作用点に対する増強、抑制等の作用による最終結果を予測するプログラムを作成する。そのために、たとえばキナーゼパスウェイであれば、判明しているすべてのキナーゼに対する阻害作用を有する化合物の報告をZINCデータベースなどから網羅的に取得する。その上で、ブーリアンネットワーク、ベイジアンネットワーク等を用いて作用点とそれに続く反応経路との制御関係の予測リストを作成する。また既存の文献報告から、その帰結点としてのフェノタイプ情報を学習させる。この繰り返しにより、予測確度を向上させ、パスウェイ上での作用の結果を予測、シミュレーションする。2つ以上のターゲットに対しても、帰結点の予測を可能とするよう因果推論を向上させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今期に予定していた学会発表を延期したため少し繰越金が発生したが、次年度に使用する。
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