研究課題/領域番号 |
17K07269
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
本多 正尚 筑波大学, 生命環境系, 教授 (60345767)
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研究分担者 |
太田 英利 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 教授 (10201972)
加藤 英明 静岡大学, 教育学部, 准教授 (10569643)
唐澤 重考 鳥取大学, 農学部, 教授 (30448592)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 保全 / 爬虫類 / キノボリトカゲ / 国内外来種 / 在来生態系 / 分布域 / 屋久島 / 琉球 |
研究実績の概要 |
本研究では、移入種が分布拡大の最前線で在来生態系へ与えるインパクトを評価するため、国内外来種(本来琉球列島では在来種であるにも関わらず、人為的に本土に持ち込まれた種)であるオキナワキノボリトカゲDiploderma polygonatum polygonatum(以前はJapalura polygonata polygonataとして分類)を対象として、分布域、個体数、食性、低温耐性、移入経路、定着メカニズム等を分析する。5年目にあたる今年度は、本来であれば昨年度に実施予定であった現地での野外調査を行い、これまでの駆除の効果をモニタリング調査する予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響のため実施内容を一部変更して行った。 初年度からの結果を総合すると、従来の調査で分布が未記録であった地域でもオキナワキノボリトカゲの移入個体を新たに発見し、尚且つ今まで活動が確認できていない1月や2月という気温の低い時期に野外で個体が採集された。このことから、分布域の拡大と同時に、予想以上に低い気温状況下でも活動が可能であると判断された。 同時に胃内容物も行った。形態学的な分析から得られた胃内容物の分析結果では、87種が種レベルで同定できた。その中で最も多かったのがハチ目(主にアリ類)であり、アリ類が本地域でのオキナワキノボリトカゲ重要な餌となっていることが明らかになった。また、次世代シークエンサーを用いたアンプリコンシークエンスでは、コウチュウ目、ハチ目、カメムシ目、オビヤスデ目、クモ目の配列が検出された。 同時に、本研究の成果に基づき、鹿児島県や屋久島町の関係者らとオキナワキノボリトカゲ外来集団の食物網を介した在来生態系への影響リスクや対策について協議を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により1年間の延長申請を行って実施した5年目にあたる。内容としては、最終年度である4年目に実施予定であった現地で野外調査を行い、これまでの駆除の効果をモニタリング調査する予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、申請者および分担者がいずれも屋久島に実際に赴くことができなかった。そこで今年度の研究については、昨年度まで外部形態から胃内容物の種同定を行っていたにも関わらず同定できなかった標本を対象にして、次世代シークエンサーを用いたアンプリコンシークエンスを行い、胃内容の種同定の分析を行った。 胃内容物を摘出し、DNAに生成した後、バーコーディング用のプライマー(COI領域)と爬虫類用のブロッキングプライマーを用いてPCRを行い、ライブラリーを作成した。その後、次世代シークエンサーを用いた分析を行い、多数のリードを得た。相同性検索を行ったところ、クシコメツキ(コメツキムシ科、コウチュウ目)、ホソヒョウタンゾウムシ(ゾウムシ科、コウチュウ目)、ヤマアリ属に属する3種(アリ科、ハチ目)、ヒメアシナガコガネ(コガネムシ科、コウチュウ目)、アブラムシ科に属する2種(カメムシ目)、クロヤマアリ(アリ科、ハチ目)、ヒラタクロクシコメツキ(コメツキムシ科、コウチュウ目)、チュウガタシロカネグモ(アシナガグモ科、クモ目)、アサヒエビグモ(エビグモ科、クモ目)、ヤケヤスデ(ヤケヤスデ科、オビヤスデ目)の配列と相同性が高いことが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度については、当初の予定であった駆除後の生息数のモニタリングを過去の目撃地および周辺地区で行う。同時に、これまで記録がなかった地域についても目視での分布調査を行う。新型コロナウイルス感染拡大の影響により駆除後時間が経過していること、昨年度までの調査において台風の影響で実施できない調査があったこと、予想以上に冷涼な時期での活動や原産地ではあまり好まれない生息環境への分布拡大があったこと等を考慮して、分布状況、個体数、選好環境、食性に関する野外調査も継続する。これらから、国内外来種の駆除に対する短期の効果を評価し、駆除個体数と分布個体数の関係等を分析する。 同時に、今年度に行ったオキナワキノボリトカゲの食性についてのアンプリコンシークエンス分析と、それまでに行った形態からの種同定とDNAバーコーディングの結果との整合性を評価する。 こうして得られた情報を整理し、国内外来爬虫類が分布拡大の最前線で在来生態系に与える影響について総合的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度終盤から今年度に関しては、新型コロナウイルス感染拡大の影響のため、予定していた駆除の効果に関するモニタリング調査が全く行えなかった。現地に赴いて調査を強行することも考えたが、公的な資金であること、さらには調査地が離島であり、万が一新型コロナウイルスの感染源となった場合に地元住民に与える影響、引いては今後の保全活動にも大きな影響を与えかねないことから判断し、緊急事態宣言解除後も自粛せざるを得なかった。このため旅費分が次年度使用額として生じた。 次年度に関しては、従来予定していた時期のモニタリングに加え、今年度に予定したにも関わらず調査を行えなかった冷涼な時期も加えて、野外調査を行う。したがって、次年度に繰り越す金額については、調査旅費と実験の予算として使用する。
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