研究課題/領域番号 |
17K07272
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
森 直樹 神戸大学, 農学研究科, 教授 (60230075)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 野生2倍性コムギ / 野生4倍性コムギ / 遺伝的多様性 / 遺伝資源 / 疑似自然集団 |
研究実績の概要 |
コムギは、約1万年前にトルコ南部で栽培化された。祖先野生種はその自生地の多様な環境に適応・進化しており、集団内・集団間で非常に高い多様性をもつことがわかってきた。この多様性は、地球環境の変化に対応した作物改良の素材としても不可欠である。しかし、栽培化起源地であるトルコ・シリア国境の野生コムギ集団は人為的破壊によって消失の危機にある。本研究では、栽培化起源地の野生コムギ集団を持続的・発展的に利用するため、つぎの3項目を実施することを目指している。1)自然集団から任意抽出した擬似自然集団の育成、2)葉緑体DNA分析による自然集団の遺伝的多様性の解明、3)葉緑体DNAのハプロタイプ比較による栽培化に寄与した野生コムギ集団の特定。 今年度は、予定通り上記の1)に挙げた疑似自然集団育成を開始した。これまでの現地調査から、「栽培化起源地」における野生コムギの自然集団の地理的分布は不連続であり、大きくEast1、West1、West2の3地域に分かれていることが判明している。また、多くの場合、これらの地域では2倍性の野生種と4倍性の野生種が混生していることが多いことも判明している。報告者らは平成29年の9月と10月にトルコに渡航し、これまでの共同研究によって上記の地域の自然集団で採集し共同研究先であるチュクロワ大学に保存中の採集サンプルから現地の地理的条件なども考慮し、2倍性野生種と4倍性野生種のそれぞれ約20集団を選んだ。これらの集団ごとに複数の小穂を無作為にとりだし、それぞれから1個体ずつ育成することを目標に準備を行った。 また、本研究による国際共同研究の概要および集団内の遺伝的多様性の予備調査の結果について国際学会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
報告者らは、平成29年の9月と10月にチュクロワ大学に滞在し、播種のための種子の準備と播種をそれぞれ実施した。19の野生2倍性コムギ集団と18の野生4倍性コムギの集団からそれぞれ20~50の小穂をランダムに取り出し、小穂ごとに1粒の穎果を選んで識別番号をつけた。ろ紙を敷いたプラスティックシャーレにあらかじめ識別番号をつけた頴果を播種し、発芽した頴果をプラスチックポットに仮植えした。チュクロワ大学における共同研究者に依頼し、これらの植物を12月にチュクロワ大学構内の実験圃場に定植した。定植された植物は2倍体種で554個体、4倍性種で407個体(総数951個体)あり、平成30年4月初旬の時点で、特に大きな問題なく成育中であるとの報告をうけている。以上から、本研究の当初の計画通りに進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に播種し育成を開始した疑似自然集団の自殖を行い次世代を育成する。また、これと平行してこれらの植物の遺伝的多様性をさぐるための第一歩として、系統化を開始した野生2倍性コムギと野生4倍性コムギについてDNA解析のための準備を行う。そのため、以下の要領で進める。 1) 自殖による採種:圃場に定植した約1000個体について開花前に1個体あたり2穂をランダムに選びグラシン紙袋をかけて自殖させる。登熟後、個体ごとに収穫し温室で乾燥させ脱穀・着粒調査を行う。また次世代の播種を行う。 2) DNA抽出のための葉組織の採取:圃場に定植した個体が第10葉を展開するころに各個体から0.5グラムの葉組織を採取し凍結保存する。 3) 種の同定:トルコ南部には、野生二粒系コムギと野生チモフェービ系コムギがともに分布し、両者は穂の形態では区別できないため、葉面の毛の形態で両者を識別し、野生チモフェービ系コムギは解析から除く。 以上の目的のため、本年度も複数回トルコへ渡航する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度末に支出を予定していた試薬購入を平成30年度に持ち越さざるを得なかったため、66110円の次年度繰越金が生じた。平成30年度に当該試薬を購入し、当初の予定通り研究を進める。
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