研究課題/領域番号 |
17K07273
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
高倉 耕一 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (50332440)
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研究分担者 |
西田 隆義 滋賀県立大学, 環境科学部, 教授 (60208189)
中西 康介 滋賀県立大学, 環境科学部, 研究員 (90726746) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 固有種 / 絶滅危惧種 / 繁殖干渉 |
研究実績の概要 |
2018年度の野外調査に先立って、ビワコガタスジシマドジョウ(コガタ)の現在知られる唯一の繁殖地に対し人為的な環境改修を行った。この環境改修は、コガタの個体群が健全であったと考えられる数十年前の繁殖状況、すなわち本種の主な繁殖場所は水田であり、主に水路で繁殖するオオガタとは異所的であったことに着想を得て実施したものである。これによりオオガタスジシマドジョウ(オオガタ)からの繁殖干渉(種間の求愛による繁殖成功度の低下)が緩和されることを期待した。具体的な環境改修の内容は、現在の繁殖地内に、水田環境と同じく水温が上昇しやすい環境として、浅く流速が小さい水域を新たに造成したものである。この環境改修の後に行った2018年度の野外調査の結果、新しく造成した水域を中心にコガタが繁殖を行い、繁殖地全体としてもコガタ稚魚の出現が近年の中では最も多くなったことを確認した。前年度まで、コガタのメス個体のほとんどは、繁殖地に遡上しながらも、産卵できないまま繁殖期の終りを迎えていたが、本年度は産卵に成功したメスが多かった。これらの結果はいずれも、繁殖地の改変によってオオガタからコガタに対する繁殖干渉が緩和されたことを支持している。本保全手法の効果については引き続き調査・検証が必要であるものの、本研究結果は、繁殖干渉に関する知見を絶滅危惧種の保全に応用し、野外個体群において成果を得た世界初の事例である。また、人工繁殖個体を2種ともにそれぞれ数十個体超を得た。これらの個体を育成し、2019年度には室内での行動観察や野外飼育施設での操作実験に用いる予定である。さらに、野外での種間交雑を検出するための分子マーカーの開発を行った。 前年度までの成果は、Environmental Biology of Fishes誌などに計3報発表し、国内学会で2回の学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
行動観察については、対象とする個体の入手が困難であったため、本年度は実施することはできなかったものの、人工繁殖個体が成長しつつあり2019年度には実施できる見込みである。野外調査については、これまでの研究で把握できた繁殖干渉のメカニズムをもとに、予定を早めて保全の実践を行い、近年の例にないほどビワコガタスジシマドジョウが再生産したことを確認した。分子マーカーの開発については、既に完成したRFLPマーカーだけでなく、新たな遺伝子座を標的としたマーカーの開発に着手している。成果の公表については、本年度に3報を発表するなど、順調である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の繁殖期前に実施した繁殖地の改変によってビワコガタスジシマドジョウの繁殖成功度を高めることができたが、2019年度にも引き続いて繁殖状況をモニタリングし、環境改変の効果を検証する。また、人工繁殖個体の育成を続けて、年度内に行動観察を行うことを目指す。開発した分子マーカーを用いて、種間交雑の有無についての知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
保全を目的とした繁殖地環境の改変を前倒しして実施することができたため、本年度は分子マーカーの開発およびこのマーカーを用いた分析よりも、野外調査に注力した。そのため、室内実験に用いる試薬購入や実験補助者の賃金支払いが予定よりも少なかったためである。これらの室内実験は2019年度に実施する予定である。
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