研究課題
遺伝子解析用宝石サンゴの保存方法について検討した。その結果、常温で保存可能であり、粉砕した試料からDNAを抽出することができるCHAOS液が適しているとの結論を得ることができた。日本近海における宝石サンゴ分布海域(小笠原、高知、鹿児島、沖縄)から採取されたアカサンゴ84群体について、CHAOS液によるDNA抽出を行い、RAD-seq解析を行った。その結果、2万以上のSNP遺伝子座が抽出された。欠損データの少ない59群体について、多型が見られかつ中立なbiallelic遺伝子座を絞り込んだ結果、62遺伝子座確認された。核遺伝子の一つであるアルギニンキナーゼ遺伝子の配列をアカサンゴとベニサンゴ間で比較した結果、宝石サンゴではミトコンドリアゲノム遺伝子よりも核遺伝子の方がDNAの置換速度が数倍速いことを確認した。日本近海産アカサンゴ、モモイロサンゴの骨軸中の色素成分についてUPLC四重極-飛行時間型質量分析計を用いて解析した結果、ベニサンゴと同じ色素成分であるカンタキサンチンを同定した。宝石サンゴ骨軸の赤からモモ色までの色彩は、カンタキサンチン量に依存すると考えられる。宝石サンゴは水深100~300mに生息し、通常の方法では採集は難しい。遺伝子実験用の新鮮な試料をいつでも陸上で確保できるようにするために、シロサンゴの飼育実験を行った。シロサンゴ共肉の炭素・窒素安定同位体比を分析することで、投与している餌料をシロサンゴが摂食しているか否かについて解析できることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
宝石サンゴを代表するアカサンゴについて、ほぼ分布域をカバーする海域(小笠原、高知、鹿児島、沖縄)から採取された84群体のRAD-seq解析を行うことができ、59群体から欠損が少ないデータを得ることができた。詳細な解析は今年度実施する予定であるが、本研究課題の基幹を成すデータを得ることができた。そのため、本研究は順調に進捗していると判断した。
モモイロサンゴとシロサンゴのRAD-seq解析を行う。そのために、小笠原、長崎、鹿児島、沖縄近海においてそれらの試料を採取する。前年度得られたアカサンゴRAD-seq解析データを用いて、全群体間の系統関係を把握する。また、絞り込まれたbiallelic遺伝子座を対象に、地点間の遺伝的分化係数を算出し、遺伝的交流パターンの把握を行う。また、モモイロサンゴとシロサンゴのRAD-seq解析データについてもアカサンゴ同様の解析を実施する予定である。さらに、アカサンゴ、シロサンゴ、モモイロサンゴ及びベニサンゴからTotal RNAを抽出しRNA-Seq解析を行う。RNA-Seq解析結果から、種毎の遺伝子発現量の比較,核遺伝子の置換速度の比較等を行う。宝石サンゴ骨軸の薄片試料を作成し、イメージング質量顕微鏡を用いてカンタキサンチン及びタンパク質成分の濃度分布を解析する。マイクロスコープ-高精度色彩解析法を用いたマッピング解析により、色素成分の色彩の微細構造を求め、カンタキサンチン及びタンパク質成分との相関を検討する。鹿児島近海アカサンゴ分布域にロガー型流向流速計を設置する。少なくとも1年以上設置し、流向及び流速を観測する。シロサンゴの飼育実験を継続して行い、飼育技術の確立を目指す。特に、人工飼育に最適な餌料を選定する。
1度に多数の試料のRAD-seq解析を行ったため、当初予定していた予算以下で済んだ。残金は解析する試料の数をできるだけ増やすために充当する。また、RNA-seq解析の費用にも充てる。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
The Rissho University International Journal Committee ed., The Academic Pilgrimage to Sustainable Social Development. The Rissho International Journal of Academic Research in Culture and Society
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