メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ(MAT)は、ATPとメチオニンからS-アデノシルメチオニン(SAM)を合成する酵素である。SAMは、ヒストンやDNAのメチル化反応においてメチル基ドナーとなる重要な代謝物であり、細胞内におけるSAMの生産は厳密にコントロールされる。その鍵の一つは、MATをコードするmRNAの安定性が細胞内SAM量に応じてフィードバック制御されることである。申請者らは、この制御においてMAT mRNA 3' 非翻訳領域(3' UTR)に存在するヘアピン構造中の特定のアデノシン部位がN6-メチル化修飾(m6A)されることが重要であり、この修飾にRNAメチル基転移酵素METTL16が関わることを見出した。本研究は、MAT2A mRNAと相互作用するRNA結合タンパク質を探索することを目的とする。 これまでに、MS2タグによる系を利用して、HeLa細胞においてルシフェラーゼ遺伝子とMAT2A 3' UTRが融合したレポーターmRNAに結合するタンパク質を分離し、LC-MS/MSによって同定を行った。その結果、METTL16の他の標的RNAの一つであるU6 snRNAに結合することが知られているタンパク質(A)、またRNAエキソソームのサブユニットの一つ(B)が注目因子の候補として得られた。今年度は、これら二つの因子に注目し、HeLa細胞からcDNAクローニングを行ってFLAG-HAタグ融合タンパク質の発現ベクターを構築し、タグ付きタンパク質を発現する細胞を用いたRNA免疫沈降によって、因子AとMAT2A mRNAとの結合を確認した。また、因子Bについては、RNAiを用いてノックダウンを行ったところ、細胞内SAM減少時のMAT2A mRNA増加が見られなくなることが分かった。この結果は、RNAエキソソームとMAT2A mRNA安定性の関係を示唆するものである。
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