研究課題/領域番号 |
17K07282
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
広瀬 豊 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 准教授 (00218851)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 遺伝子発現 / mRNA / 転写 / RNAポリメラーゼII / RNA修飾 |
研究実績の概要 |
申請者は、RNAポリメラーゼIIの C末端領域(CTD)にリン酸化特異的に結合する新規ヒトタンパク質PCIF1を同定し、その機構解析を進めている。PCIF1は、RNA m6A修飾活性を有すると想定されるドメインを持つことが最近明らかとなった。そこで本研究は、PCIF1が実際にRNAm6A修飾活性を有するかを検証し、遺伝子発現調節おける機能を解明することを目的としている。 当初の計画では、PCIF1のRNAm6A修飾活性を検証するために、大腸菌発現ヒトPCIF1組換えタンパク質を精製し、試験管内RNAメチル化アッセイをおこなう予定であった。しかし、大腸菌発現系では、組換えPCIF1タンパク質の精製が困難であった。そこでまず、PCIF1により発現調節されるヒト遺伝子をゲノムワイドに検索し、PCIF1標的遺伝子の同定を試みることにした。その後PCIF1が、標的遺伝子mRNA生合成のどの段階を調節し、さらにそれら遺伝子のmRNAメチル化レベルを調節しているかを解析する方針に改めた。解析の結果以下のような結果を得た。 ヒトDNAマイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現解析をもとに、PCIF1ノックダウンによって発現が変化し、かつPCIF1レスキューによって発現回復するヒト遺伝子として、CNOT6とRAB23を同定した。さらに、それらの遺伝子発現調節が、mRNA安定性のレベルで行われていることを明らかにした。またPCIF1は、それら遺伝子のプロモーター領域に転写活性依存的に局在し、その局在は、CTDリン酸化酵素CDK7の阻害によって著しく阻害された。以上より、PCIF1はCTDリン酸化依存的に遺伝子プロモーターにリクルートされ、転写とmRNA安定性を共役させることで特定遺伝子の発現を制御することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的の一つである新規因子PCIF1の遺伝子発現調節おける機能の一端を明らかにすることが出来た。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)当初の目的であるPCIF1のRNAm6A活性の有無を検証するために、バキュロウイルスー昆虫細胞発現系をもちい、ヒトPCIF1組換えタンパク質を精製し、試験管内RNAメチル化アッセイをおこなう。 (2)CRIPR/Cas9システムをもちい、PCIF1遺伝子破壊ヒト細胞株の樹立をおこなう。 (3)PCIF1の想定されるRNAm6A修飾活性ドメイン内の活性部位アミノ酸の変異体を作成し、PCIF1ノックアウトまたはノックダウン細胞に導入することで、標的遺伝子mRNAの安定性およびm6A修飾が回復・変化するかを検討する。 (4)PCIF1はN末端側に存在するWWドメインを介してリン酸化CTDに選択的に結合し,ヒト遺伝子のプロモーター近傍にリクルートされると考えられる。PCIF1による標的遺伝子mRNAの安定性調節およびm6A修飾にとって,リン酸化CTDに結合して転写過程と共役することすることが重要であるかを検討するために,リン酸化CTD結合能消失型のPCIF1 WWドメイン変異体をPCIF1ノックアウトまたはノックダウン細胞に導入し,標的遺伝子mRNAの安定性およびm6A修飾が相補されるかを検討する。 (5)PCIF1と相互作用する新規因子の同定を通じ、PCIF1とともに遺伝子発現制御に関与する因子の探索を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた論文校正などに要する人件費・謝金についての支出が生じなかったこと、また実験計画の修正により試薬類に要する費用が想定よりも低かったことが主な理由である。次年度以降の研究計画に必要な経費となる予定。
|