研究実績の概要 |
細胞ががん化する仕組みの一つに「チェックポイント適応」が知られている。「チェックポイント適応」が起こると、ゲノムDNAに損傷を受けた細胞の細胞周期を停止させるDNAチェックポイント機構が、DNA損傷が未修復であるにもかかわらず不活性化する。申請者は、本期間中にチェックポイント・タンパク質RAD9のポロ様キナーゼ1(PLK1)によるリン酸化が「チェックポイント適応」の引き金となることを見出し、その分子機構として、PLK1によるリン酸化が、RAD9上でのタンパク質間相互作用を活性化から不活性化へと変化させることを本研究期間中に見出し報告してきた(eLife, 2017)。しかしながら、どのような細胞内環境下でチェックポイント適応を引き起こす細胞とそうでない細胞の違いが引き起こされるのかについては未解明であった。そこで、申請者は、がん情報データベースから、PLK1の転写は細胞種ごとに非常にバリエーションがあり、また、PLK1-RAD9経路の亢進がオートファジー経路の活性化と強い相関を示すことを明らかにし、その分子詳細の追求を2020年度に試みた。結果、PLK1とRAD9経路の転写をオートファジー経路が活性化することを見出し、また、ゲノムストレス応答時に細胞増殖の維持に細胞種特異的にPLK1とオートファジー経路が協調的に働く証拠をさらに見出した。がん情報データベースは近年非常に整備されつつあり、本研究では、データベース情報を分子実験で補完する我々の手法の有用性を検証できたと考えている。
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