研究課題/領域番号 |
17K07289
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
吉久 徹 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (60212312)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | tRNA遺伝子 / 同義遺伝子 / tRNAレパートリー / 転写制御 |
研究実績の概要 |
tRNAは、数の上では細胞内で最も豊富なRNA種で、真核生物では必要量を確保するため、同一のtRNAは多数の同義遺伝子から低分子RNA用のRNA polymerase III(Pol III)により転写される。翻訳効率を介してプロテオームを左右するtRNA組成は、コドンバイアスと呼ばれる生物種特有の同義コドンの使用頻度の偏りに対応して保たれると考えられてきたが、近年、環境や組織、発生段階でtRNA組成が変化することが明らかとなった。本計画では、出芽酵母を材料とした網羅的tRNA発現解析と系統的な同義tRNA遺伝子の改変実験により、こうしたtRNA組成変化を可能にするtRNAの遺伝子発現制御、特に、今まで想定されていなかったtRNA遺伝子の個別制御の実態を探る。 本年度は、先ずは個別のtRNA遺伝子の発現状態を検討するため、同義tRNA遺伝子上のPol IIIおよびTFIIIBのChIPアッセイ系の確立を行った。既存のChIPプロトコールを改善し、10個あるtRNA-LeuCAAの遺伝子座の間でのPol IIIの占有状態を比較したところ、第1番染色体のtRNA-LeuCAAの遺伝子座のPol III占有率が若干高いものの、基本的に10個の遺伝子座全てがほぼ同様のPol III占有率を示した。次に、全6遺伝子座の塩基配列が同一であるtRNA-TrpCCAについて、遺伝子座の全欠失組合せ、64株を構築した。完全欠失株は以前の報告通り致死だったが、第7番染色体の2座のいずれか、第11番染色体の1座のみを持つ株はある程度生育したのに対し、他3座位のみを持つ株はほとんど生育できなかった。こうした事から、tRNA-TrpCCA遺伝子は6座の同義遺伝子座間で機能差があることが判った。さらに、tRNAのisodecoder毎に絶対定量する新規技法の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ChIPによる個別tRNA遺伝子のPol III占有状態を確認する研究手法を実験室内で稼働させ、tRNAの同義遺伝子毎の発現解析技法が確立された一方で、イントロン配列に基づく転写量測定は現在系を構築中である。他方、tRNAの現存量の解析については、新規なtRNA絶対定量法を確立し、現在、その論文発表の投稿準備を進めている。生育ストレス条件下の解析は、上記のChIP解析を含めて進行中であるが、最低でも、増殖を停止した定常期(C源枯渇期)に全RNAあたりのtRNA量が増加するなどの情報が得られつつある。 卒研生へのテーマ付与という人的資源配置の必要性から、H31年度に進める予定のtRNA遺伝子数擾乱実験について、tRNA-TrpCCAの遺伝子群の系統的欠失株構築を先行させたところ、意外に早く全ての同義遺伝子欠失変異株セットが確立された。こうした研究資源を用いれば、今後の研究計画に従って、tRNA遺伝子の個別制御に関する解析を進めていくことが可能だと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
前述の様に、一部の研究計画が人的資源配置の関係で前後しているが、おおむね全体の進捗に格段を遅れはないので、当初の計画に従って研究を進める。tRNAの絶対定量法の解析の中で、各種tRNAの絶対量が2~3倍の範囲であるが、培養液の炭素源、及び、培養状態(対数増殖期か定常期か)で変化すること、さらには、tRNA種毎に増減の状態が明らかに異なることが明らかとなっている。こうした条件の変化に伴うtRNA発現量調節に個々の同義遺伝子の発現制御がどのように関わるかは、今後の研究で取り上げるべき課題とあるであろう。他方、tRNAの蓄積量は、発現(転写)の調節に加え、分解の調節も絡んでいることから、この面での研究展開も視野に入れる必要が生じると考えられる。この点に関しては、H30年度以降の研究展開の中で、計画変更の必要性を適宜検討する。
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