研究課題/領域番号 |
17K07290
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
菱田 卓 学習院大学, 理学部, 教授 (60335388)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 紫外線 / DNA損傷トレランス / DNA相同組換え / 倍数体 / 酵母 |
研究実績の概要 |
長期に渡るDNA損傷ストレスへの暴露は、生物の様々な機能に影響を及ぼしヒトにおいては発がんや老化と密接に関連している。申請者は、自然環境で問題となる慢性的かつ低レベルの紫外線ストレス(chronic low-dose UV; CLUV)下で酵母細胞を培養可能な装置を作製し解析を行った結果、紫外線損傷の修復ができないNER経路の欠損株がCLUV環境では増殖阻害を引き起こさない一方で、複製ストレスの解消に関与するDNA損傷トレランス経路の欠損株が増殖阻害を引き起こすことを明らかにした。この結果は、本実験系が致死的でないDNA損傷ストレスに対する細胞のトレランス機構について解析する優れた実験系であることを示している。今回、申請者は、NER欠損株を用いて、CLUV環境下で継代培養による長時間(~6日間)に渡る突然変異頻度の測定を行ったところ、培養開始後数日は突然変異頻度の顕著な上昇が観察されたが、培養3日目以降に急激に頻度が低下するという興味深い結果が得られた。そして継代培養時の細胞のDNA含量をFACS解析により調べたところ、3日目以降に二倍体化した細胞の割合が顕著に増大すること(倍数性の変化)を見いだした。さらに、一倍体から四倍体までの酵母を用いてCLUV感受性を調べた結果、二倍体細胞が最も耐性能力が高いことが示された。次に、二倍体耐性株におけるCLUV耐性能に関して、様々な損傷応答関連の変異株を用いて解析した結果、DNA相同組換えが二倍体細胞におけるCLUV耐性の獲得に必須の機能を果たしていることを明らかにした。また、CLUVによって誘発する一本鎖DNA結合タンパク質RPAのフォーカス形成に関して、細胞分裂の際に非対称分離することが明らかになり、このメカニズムの解析のため、タイムラプス解析による生細胞観察が可能な条件検討を行い実験系の構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では大きく2つのテーマに取り組んでおり、1)「倍数性の増加がCLUVストレスに対する耐性獲得(適応)に果たす役割の解明」に関しては、慢性紫外線環境において2倍体細胞が最も環境に適応的であることや、この適応においてDNA相同組換え経路が必須の役割を果たしていることを明らかにした点は大きな進展と言える。また、2)損傷染色体を持つ細胞の非対称分離の分子メカニズムの解明に関しては、CLUVによって生じるRPA-YFPフォーカスを持った細胞のタイムラプス解析の条件検討を行い、来年度以降の変異体解析に使える実験系の構築に成功した。以上の進捗状況を踏まえんて、現時点では概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
DNA損傷抗体を用いたゲノム上に蓄積するピリミジン二量体や一本鎖DNA量の定量化を行い、CLUV環境下における損傷量とDDT経路や組換え経路の働きに関する関係性を調べ、倍数性の違いがこの関係性に及ぼす影響を調べる。さらに、DNA相同組換えの役割を明らかにするため、各変異体株を作製しCLUV耐性能や倍数性に及ぼす影響を調べ、その働きに関して、Rad52などの組換え関連タンパク質のYFPフォーカス形成や、染色体喪失とLOH型組換え頻度の測定などにより調べる。 CLUVストレス環境における細胞寿命の測定、ビオチン標識法や出芽痕の染色(Calcofluor White)等を用いて母細胞と娘細胞を区別し、老化母細胞とRPAフォーカス形成の蓄積の相関性を明らかにする。 CLUVに感受性を示すヒストンH3及びH4変異体とrad14欠損(NER欠損)の二重変異株を作成し、CLUV感受性及びRPA-YFPフォーカスの非対称分離における役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
DNA損傷を持つ細胞の非対称分離に関する研究において、蛍光顕微鏡を用いたタイムラプス解析の条件検討において当初の予定より時間がかかってしまったため。 変異株の新たな作成、細胞周期ごとの損傷染色体の動態解析に使用する分子生物関連試薬及び培地、プラスチックチューブ、抗体等の物品費に使用する。
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