研究課題/領域番号 |
17K07291
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
石黒 亮 法政大学, マイクロ・ナノテクノロジー研究センター, 研究員 (70373264)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | グアニン四重鎖 / ALS / TDP-43 / 神経変性疾患 / mRNA輸送 / 局所翻訳 / RNA |
研究実績の概要 |
TDP-43は、RNA認識モチーフを持つタンパク質でALS(筋萎縮性側索硬化症)やFTLD (前頭側頭葉変性症)患者の神経細胞内に出現する封入体の主要成分である。また、家族性・弧発性の患者でも遺伝子変異が報告されている。しかし本来の機能が不明であるため、何故TDP-43の異常がALSなどの神経変性疾患を引き起こすのか全く解っていなかった。研究代表者はTDP-43が、グアニン四重鎖構造(G-quadruplex)と呼ばれる特殊なRNA立体構造を認識し、核から遠く離れた神経末端に輸送することを発見した。本研究は、TDP-43が標的mRNAを核から遠く離れた局所的翻訳システムへ輸送する分子メカニズムの解明を目的とする。 既にin vitroで確認されたTDP-43とグアニン四重鎖との相互作用が実際に生体内で機能していることを神経細胞で確認を行った。ラット海馬細胞を用い、mRNAの3’側にグアニン四重鎖を有する非制御遺伝子候補PSD-95, CaMKIIα, のmRNAとTDP-43タンパク質の共局在を蛍光標識の検出強度で確認した。 家族性のALSあるいはFTLDでは多数のTDP-43遺伝子(TARDBP)突然変異が報告されている。そこで10種類のヒトALS由来点突然変異のタンパク質を発現・精製し、グアニン四重鎖との相互作用を確認したところ、有意に結合が低下していることを定量的に確認した。 また、TDP-43の発現ベクター及び10種類の点突然変異発現ベクターをトランスフェクション後に被制御遺伝子産物であるPSD-95, CaMKIIαタンパク質の神経突起等での蓄積量を定量した。結果、変異タンパク質では非制御遺伝子のmRNA輸送と局所翻訳が低下していることを突き止めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ALS発症に関わる責任タンパク質であるTDP-43は、家族性及び弧発性ALS患者で多数の点突然変異が見つかっている。しかし、それら変異が何故病態形成に繋がるのか、解明されていなかった。本研究では家族性及び弧発性のヒトALS由来突然変異タンパク質10種類を高度に精製することに成功した。これまではタンパク質の安定性や分解速度に関して研究が進められて来たが、それらは殆ど変化がないことを確認した。しかも、10種類の点突然変異タンパク質は全てグアニン四重鎖との相互作用が低下していることを定量的に確認することができた。これら相互作用の低下を培養細胞を用いた、顕微鏡観察によっても同じ結果が得られた。つまり、点突然変異によってグアニン四重鎖を有するmRNAとの結合が低下し、結果mRNAの輸送が阻害され、それらがコードするタンパク質の局所翻訳も阻害されるという新たな見知が得られた。当初は10種類の突然変異の中からグアニン四重鎖との相互作用に変化を持つ変異を同定するのが目的であったが、全てに於いて相互作用の低下が確認されたことは、ALSの発症原因がRNAグアニン四重鎖との相互作用に強く依存していることを示唆している。このことはALS発症の原因究明に寄与するばかりでは無く、相互作用を安定化させる低分子化合物等の利用が、疾患軽減の創薬に繋がる可能性を示している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の結果、TDP-43が標的mRNAを核から遠く離れた局所的翻訳システムへ輸送する分子メカニズムの詳細が明らかとなって来た。また、ヒトALS由来点突然変異を有するTDP-43はその機能が低下していることも突き止めた。しかし、TDP-43が細胞内でどの様にmRNAを輸送しているのかは全くの謎である。恐らくその輸送には細胞内のキネシンやダイニンなどのモータータンパク質が関与し、樹状突起や軸索に存在するフィラメント上を移動していると予想されるので、今後その直接の作用分子や認識システムについて解析を進める。神経細胞では神経突起に局在するmRNAの実に30%以上が3′非翻訳領域にグアニン四重鎖を持つことから考えても、非常に離れた長い距離を移動する機構が極めて重要である。それらタンパク質間相互作用やタンパク質-RNA間相互作用を理解するために、TDP-43と結合するタンパク質因子を分離・精製し、質量分析法により同定したい。これまでmRNAの細胞内輸送はRNA顆粒と呼ばれる集合体による制御が予想されているが詳細は明らかではなく、本研究の結果はこれまでに無い新しいmRNA輸送システム発見に繋がる可能性も高い。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定では平成29年度に海外学会への参加を予定していたが、会期と業務との日程調整がつかず、学会参加を延期した。従って、次年度使用額を平成30年度の海外学会への旅費、もしくは国内の学会・ミーティング参加費として使用する計画である。
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