研究課題/領域番号 |
17K07293
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
浜田 京子 基礎生物学研究所, クロマチン制御研究部門, 助教 (90450410)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | クロマチン / RNA / 遺伝子発現制御 |
研究実績の概要 |
本年度はin vitroの実験系を用いてHUSH complexとRNAの相互作用を解析することを優先的に行った。まず、in vitroでリコンビナントタンパク質を用いてHUSH complex の主な構成因子でこの複合体のクロマチン結合に必須であるMPP8のRNA結合能を解析したところ、MPP8がRNA結合能を持つことがわかり、このタンパク質のRNA結合に重要な領域を特定することもできた。これに加え、HUSH complexと共に働くヒストンメチル化酵素、SETDB1についても微弱ながらRNA結合能を持つことが分かった。また、ペプチドや再構成ヌクレオソームを用いて、RNA結合がMPP8やSETDB1のクロマチン結合に影響するのか否かを調べたところ、RNA存在下・非存在下において、これらの因子とヒストンH3テール又はヌクレオソームの結合に顕著な差は見られなかった。よって、in vitroの条件下において、RNA結合はMPP8やSETDB1のクロマチン結合に影響しないことが示唆された。次に、SETDB1のヒストンメチル化活性に対するRNAの影響をin vitroで解析したところ、RNAの存在下では、非存在下に比べてジメチルヒストンH3リジン9のレベルが上昇することがわかった。また、RNA添加によるこのヒストン修飾の上昇はMPP8を加えるとより顕著になったことから、RNAとMPP8が相乗的にSETDB1の酵素活性を制御する可能性が示された。 さらに、細胞内でHUSH complex構成因子とRNAの相互作用をRNA免疫沈降で検討したところ、二つのHUSH complex構成因子に対する抗体でRNAを共免疫沈降することができた。よって、細胞内でもこれらの因子がRNAに結合していることを示唆することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、HUSH complex構成因子(TASOR, MPP8, PPHLN1)と共に働くヒストン修飾酵素のSETDB1のRNA結合能等をin vitroの実験系で調べるために、cDNAをヒト培養細胞から抽出したRNAから作成し、大腸菌や昆虫細胞を用いてリコンビナントタンパク質の発現・精製を試みた。大腸菌では全ての全長リコンビナントタンパク質の発現が低く精製が困難であったが、少なくとも昆虫細胞から全長リコンビナントMPP8とSETDB1を精製することができた。これらのリコンビナントタンパク質と短縮型リコンビナントMPP8を用いてRNA結合能の検討、RNA結合に重要なMPP8の領域の特定、RNA結合がMPP8とSETDB1のクロマチン結合や酵素活性に及ぼす影響の検討を行うことができた。 TASORとPPHLN1については、全長リコンビナントタンパク質の発現や精製が非常に困難だった為、ヒト培養細胞内におけるRNAとの相互作用を確認することを優先的に進めることにした。すでにTASOR(とMPP8)に関しては、これらのタンパク質に対する抗体を用いてRNA免疫沈降を行い、RNAがTASORやMPP8(もしくはこれらを含む複合体)と共免疫沈降されることを確認している。PPHLN1については、抗エピトープタグ抗体を使用してRNA免疫沈降を行う必要があるため、EGFP/Flagタグを融合させたPPHLN1を発現する細胞株を樹立した。 よって、計画事項の内容または順序を変更する必要はあったが、総合的には概ね良好に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
実験的に証明された高品質の抗体が登場したことやリコンビナントタンパク質の作成が非常に困難である等の理由から、当初の予定を変更し、次年度は以下の実験を実施することを予定している。 -MPP8のRNA結合に重要と思われる領域の変異型リコンビナントMPP8を作成し、RNA結合の消滅もしくは減少をin vitroで検証する。RNA結合の消滅または減少を確認できたら、in vitroの実験系を用いてSETDB1のヒストンメチル化活性への影響を検討する。CRISPR/Cas9法等でヒト培養細胞で内在性のMPP8に同様の変異を導入することを試みる。 -RNA免疫沈降をTASOR, MPP8, EGFP/Flag-PPHLN1に対して行い、共免疫沈降されたRNAを次世代シーケンサーで解析し、HUSH complexに結合するRNAを特定する。また、細胞内で個々のHUSH complex構成因子が直接的にRNAに結合していることを示すために、PAR-CLIPを行うことを予定している。 -TASORとPPHLN1については、個々のタンパク質のRNA結合能をin vitroで解析することは困難であることが予測される。しかし、HUSH complexの主な構成因子を共発現することによってタンパク質の安定性や可溶化の向上が期待できることから、HUSH complexとしてのRNA結合能を検討するために昆虫細胞でこれらを共発現し、精製することを試みる。
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