研究実績の概要 |
本年度は昨年度に引き続き既にRNA結合能を確認できていたHUSH complexの主な構成因子の一つであるMPP8に着目して研究を進めた。コントロールとMPP8のノックダウン細胞から抽出したRNAを用いてRNA-seqを実施したところ、既存と新規のZNF遺伝子群の脱抑制が確認できた。また、SETDB1のノックダウンでもこれらの遺伝子群の脱抑制が見られたことや脱抑制の程度とH3K9me3の局在レベル間で弱い相関がみられたたことから、多くのZNF遺伝子群はMPP8-H3K9me3のメカニズムによって遺伝子発現が抑制されていることが示唆された。しかし、RNA免疫沈降(RIP)の実験で得られた結果とH3K9me3やMPP8ノックダウン時の脱抑制レベルには相関は見られなかった。 MPP8と一部のZNF遺伝子の転写産物との結合にどのような生物学的意義があるのかを調べるために、MPP8抗体を用いたRIPの結果とMPP8の標的であるZNF遺伝子の転写産物の核内滞留との関係性を検討してみたところ、強い相関がみられた。よって、MPP8が一部のZNF遺伝子の転写後制御に関与している可能性が示唆された。加えて、前年度に実施したMPP8結合因子の網羅的解析から得た結果から、MPP8がスプライシング因子のみならずエクソソーム関連因子とも結合することがわかった。siRNAを用いてエクソソーム因子の一種であるSKIV2L2をノックダウンを行い、MPP8の標的であるZNF遺伝子(ZNF594)の発現を検討してみたところ、SKIV2L2の欠乏状態においてもZNF594の脱抑制が起こることが確認できた。これらの結果から、MPP8がZNF594に代表される一部のZNF遺伝子の転写産物に結合し、核内滞留もしくはエクソソームを介してZNF遺伝子の転写産物の転写後制御に寄与していることが強く示唆された。よって、MPP8, もしくはHUSH complexの新規の機能を示すことができた。
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