研究課題/領域番号 |
17K07294
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
凌 楓 国立研究開発法人理化学研究所, 吉田化学遺伝学研究室, 専任研究員 (70281665)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ローリングサイクル型 / mtDNA複製 / 過酸化水素 / 活性酸素種(ROS) / mtDNAコピー数 / ホモプラスミー化 / ヘテロプラスミー / ヌクレオシド |
研究実績の概要 |
これまでに理想的なモデル生物である酵母を用いてミトコンドリアDNA(mtDNA)の組換えを切り口にして得たmtDNA遺伝に関する主要研究データの再現性が複数の欧米の著名な研究室によって確認された。そして、提唱した酵母のmtDNAの組換えに依存するローリングサイクル型mtDNA複製が最も主要なmtDNA複製の様式(predominant form)であることが米国の研究者たちによって実証された。私はヒトmtDNA遺伝の基本機構が酵母のそれに類似する可能性があると考えている。 今年度は、HeLa細胞を過酸化水素(H2O2)で処理するとH2O2の濃度に応じてmtDNAのコピー数が顕著に増加し、ミトコンドリア病患者由来のヘテロプラスミー細胞のホモプラスミー化を促進する濃度においてピークに達したことを観察した。それ以上の濃度のH2O2で処理するとmtDNAのコピー数の増加が見られなくなることを見出した。これらの結果から酵母で得られたROSシグナリングがmtDNAの複製・分配を調節する機構をヒト細胞も共用していることが示唆されたまた、HeLa細胞において酵母の組換え酵素 Mhr1のホモログ(hsMhr1)を大量に発現させるとやはりH2O2で同時処理した場合においてmtDNAのコピー数を顕著に増加した。さらに組換え酵素をコードする遺伝子の発現をsiRNAで抑えると、mtDNAのコピー数が顕著に減少したこと、H2O2で処理してもmtDNAのコピー数が増えなかったことをリアルタイム PCR 法で確認した。これらのことから、酵母で見出した組換えが主導するmtDNAの複製機構がヒト細胞にも存在することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は出芽酵母で得られた手がかりを元に進めており、おおむね予想し、計画した通りに進展している。 私はすでにNEBから購入したタンパク質発現システム(Impat kit)を用いて再度精製した。精製したhsMhr1タンパク質が単鎖DNAと二本鎖DNAに対して結合能をもつことを確認した。現在、引き続き、ヘテロデユプレックス形成能(D-loop形成)を持つかどうかについて調べていルところである。これにこのHeLa細胞とMELAS細胞において酸化ストレスがmtDNA複製にを促進する条件下でhsMhr1の機能が果たす役割を調べた。その結果、HeLa細胞のmtDNA複製に対して促進作用を示すことには大量発現のhsMhr1の機能にはROSが必要である。これはhsMhr1はROSによる存在下で生化学的スルフェニル化(sulfenylation)を受けるのではないかと推測している。引き続き、hsMhr1タンパク質のD-loop形成活性に対する影響を調べている。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトmtDNA複製機構を検証するために、HeLa細胞においてhsMHR1の多量発現、または(siRNA)RNA干渉でこのタンパク質酵素の発現量を抑制した際、mtDNAのコピー数の増減、及び組換え依存型の複製の重要中間体であるコンカテマーの合成量の変動を調べる。また、組換え依存型のmtDNA複製機構の活性化に働くと考えている低濃度過酸化水素処理がmtDNAの複製開始点での二重鎖切断、コンカテマーの形成、およびmtDNAコピー数の増減に与える影響を調べる。 私は、既にヒトのATM/Chk2チェックポイント経路が活性化されると、mtDNAのコピー数が転写依存型複製の開始に働く転写因子TFAMに頼らずに増加するが、ROSの量的増加と適量なROSを必要とすることを明らかにした。出芽酵母において、既にこの際、Mhr1の活性に依存してmtDNAのコピー数が増加することを明らかにした。 そこで、私は、ヒト細胞では、チェックポイント経路を活性化するとmtDNAのコピー数の増加がhsMhr1の機能に依存すると考えている。即ち、チェックポイント経路を活性化すると核DNAの修復だけではなく、ミトコンドリアにおいてもROSによってhsMhr1を介したmtDNAのローリングサークル型複製が活性化され、mtDNAのコピー数が増加する。私は、RRM3遺伝子をsiRNAでノックダウンすると、HeLa細胞においてチェックポイント経路が活性化されることを既に確認した。そこで、RRM3と hsMHR1遺伝子をsiRNAでダブルノックダウンし、チェックポイント経路の活性化に伴うmtDNAコピー数がhsMhr1に依存して増加するかどうかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(1)実験に必要な関連試薬には備蓄したものがあり、購入する必要がなかった。(2)ミトコンドリアDNAの組換え酵素の活性測定に関して意外な可能性が出てきたのでさらに調べているところである。(3)また、昨年の11月ごろ、常時使用の-30度の冷凍庫が急に故障したため、現在、冷凍用のchamber付きの使用15年間の古い冷蔵庫を代用品として使用中である。次年度で買い替えするためにMDF-U538D-PJ(486,000円)を購入する予定である。(4)さらに今年度で受理された論文の掲載料金の支払いは次年度となったためである。
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