新規アセチル化タンパク質として同定したTSC2分子について、可逆的アセチル化による機能調節の可能性について研究を行った。TSC2のアセチル化不全変異体を用いた検証により、アセチル化はTSC2分子内のリン酸化修飾の状態を変化させてTSC2の働きを調節すること、mTORシグナリングの活性化因子であるRhebとTSC2との結合を変化させることを明らかにし、結果としてmTORシグナリングを活性化することを見出した。このmTORシグナリングの新たな調節機構であるTSC2の可逆的アセチル化について、その生物学的意義を明らかにする目的で、TSC2のアセチル化状態がどのような環境因子や刺激などによって影響を受けるかを調べた。その結果、細胞内の栄養状態の変動に依存してTSC2のアセチル化状態は変化すること、また、昼夜の日内変動によってもアセチル化状態が変化することを見出した。この昼夜の変動についてより詳細に検証した結果、TSC2のアセチル化は概日リズムに伴って変動することが明らかとなった。またこの変動をもたらす一つの要因として、脱アセチル化酵素であるSIRT1が関与することを見出した。mTORシグナリングは概日リズムの起点となる時計遺伝子の発現調節に深く関与することが知られているが、mTORシグナリング自身の活性変動をもたらす要因については不明な点が多い。今回の我々の研究成果は、線維性硬化症や自閉症の病態解明や治療のためのターゲットとして役立つのみならず、TSC2のアセチル化の変動がmTORシグナリングの活性変動の起点となりリズムを生み出すという、概日リズムの分子機構の解明に極めて重要な情報提供に貢献する。
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