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2018 年度 実施状況報告書

JAK-STAT経路を不活化するため,ウイルスが採用する様々な戦略の分子機構解析

研究課題

研究課題/領域番号 17K07296
研究機関北海道大学

研究代表者

尾瀬 農之  北海道大学, 先端生命科学研究院, 准教授 (80380525)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード免疫不活化
研究実績の概要

今回私達は, ITC測定を用いてMeV-VがSTAT1よりSTAT2に対して特異性が高いことを明らかにした。そこで,STAT2を主な標的としてType I IFNシグナル経路を阻害していると考えた。STAT2は, Type I IFNシグナル経路において, リン酸化, ヘテロ複合体化, 核移行, 転写活性化という過程を経る。この過程の中でMeV-VがSTAT2に干渉してシグナル伝達を阻害することを考えると, メカニズムとして リン酸化阻害, ヘテロ複合体化阻害,核移行阻害,転写活性化阻害が考えられた。
リン酸化阻害について, STAT2のリン酸化前後でMeV-Vの結合親和性が変化するか検証することを考え, 大腸菌TKB1でSTAT2を調製することを試みた。しかし, STAT1と同じ精製法でSTAT2を精製することはできなかった。また, リン酸化させたSTAT2は非常に凝集しやすい性質であった。バッファーや精製条件の検討により, リン酸化STAT2の調製を試みたいと考えている。したがってMeV-VのSTAT2に対する結合がリン酸化阻害に関わっているか不明であるが, Type I IFN経路阻害メカニズムとして現在多くの研究者に受け入れられているのは, MeV-VによるSTAT1やSTAT2のリン酸化阻害である(Chambers R. et al., 2009; Audsley M. D. et al., 2013)。私達が組換え調製したpY-STAT1を使ったITCによる相互作用解析では, MeV-Vとの相互作用が観測できなかった。これは, 非リン酸化STAT1の時に露出していた相互作用面がリン酸化に伴うコンホメーション変化によって隠れてしまったものと考えられ, MeV-Vはリン酸化を受ける前のSTAT1に対して特異的に結合する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

ヘテロ複合体化阻害について考えた。SEC-MALSの結果から, STAT1は二量体, STAT2は単量体ということが分かった。そこで, STAT2とIRF9の複合体化について着目した。Rengachariらの報告により, STAT2のcoiled coil domain (CCD) とIRF9-IAD の相互作用領域が明らかになり, ISGF3複合体の構造が予測できるようになった (Rengachari S. et al., 2018) 。この報告を基に, IRF9-IADの調製に試み, STAT2との結合親和性を求めることができた。STAT2coreとIRF9-IADの結合親和性は強力で, STAT2 (またSTAT2core) とMeV-Vとの結合親和性と同等であった。全長とcore領域で結合親和性に違いがあるのは, STAT2coreでは欠損させているSTAT2のN-domainの運動性が影響しているのではないかと考えている。なぜなら, N-domainとSTAT2core領域の間はリンカーで繋がれいるため, 自由な運動が可能であると考えられるためである。Type I IFN経路阻害メカニズムを考察するため, MeV-VとIRF9-IADが競合的にSTAT2に結合するかSPRを用いて検証し, 競合的に結合することを明らかにできた 。MeV-VはIRF9-IADより強力な結合親和性で, また, これらの2分子は競合的にSTAT2のCCDに結合することが示唆された。つまり, MeV-Vは, IRF9より強く競合的にSTAT2と結合することで, IRF9の結合を介するType I IFN経路を阻害し, 自然免疫を不活化する分子メカニズムが示唆された。

今後の研究の推進方策

これまでのパラミクソウイルスのアクセサリー蛋白質による自然免疫阻害メカニズムは, MDA5などのRLRsに働いてType I IFN 産生を阻害するメカニズムや, STAT 分子の分解促進, STAT 分子のリン酸化阻害などが知られている。MeV-V は, 今までの報告のどれにも当てはまらない, IRF9と競合的にSTAT2に結合することでISGF3複合体形成を阻害するという新しい分子メカニズムで自然免疫を抑制している可能性がある。しかし,仮説を立てるにあたり参照したRengachariらの報告では, IRF9とSTAT2が結合できないことが, どうして下流へシグナルを伝達できないという結果につながるのか説明できない。STAT2のDBDが, DNAを特異的に認識する能力を欠いている(Qureshi S. A. et al., 1995)ため, IRF9が無ければISREの特異的な配列に結合できないことが, シグナルを正常に下流へ伝えることができない原因の一つではないかと考えているが, 詳細な説明は現時点ではできていない。MeV-VによるType I IFN経路下流のJAK-STAT経路阻害のさらなる詳細なメカニズムの解明のため, MeV-VがSTAT2のどの部位に結合するのか, 原子レベルで明らかにすることが今後の課題であると考えている。

次年度使用額が生じた理由

試薬の使用量(精製用緩衝溶液を想定)が,当該予定よりやや少なくても計画通り進行できた。次年度において,結晶作成のための試薬代として使用する。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (3件)

  • [国際共同研究] University of Melbourne/Monash University(オーストラリア)

    • 国名
      オーストラリア
    • 外国機関名
      University of Melbourne/Monash University
  • [雑誌論文] 1H, 15N and 13C resonance assignments of the C-terminal domain of the P protein of the Nishigahara strain of rabies virus2018

    • 著者名/発表者名
      Zhan Jingyu、Hossain Md. Alamgir、Sethi Ashish、Ose Toyoyuki、Moseley Gregory W.、Gooley Paul R.
    • 雑誌名

      Biomolecular NMR Assignments

      巻: 13 ページ: 5~8

    • DOI

      10.1007/s12104-018-9841-4

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] 狂犬病ウイルスP蛋白質によるJAK-STATシグナル阻害機構の解明2019

    • 著者名/発表者名
      杉山葵,蒋欣欣,永野悠馬,野間井智,若原拓也,前仲勝実,姚閔,Gregory Mosley, 尾瀬農之
    • 学会等名
      2018年度生物物理学会北海道支部会
  • [学会発表] ヒトの自然免疫系を阻害する麻疹ウイルスV蛋白質の機能解析2018

    • 著者名/発表者名
      永野悠馬、若原拓也、秦玉瑩、柳雄介、前仲勝実、尾瀬農之
    • 学会等名
      第18回日本蛋白質科学会年会
  • [学会発表] 狂犬病ウイルスP蛋白質によるJAK-STATシグナル阻害機構の解明2018

    • 著者名/発表者名
      杉山葵,蒋欣欣,永野悠馬,野間井智,若原拓也,前仲勝実,姚閔,Gregory Mosley, 尾瀬農之
    • 学会等名
      第18回日本蛋白質科学会年会

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公開日: 2019-12-27  

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