研究課題
ウイルスがどの生物を宿主として選択するか(宿主指向性)を考える上で,宿主免疫系を不活化できるかどうかは非常に大きな要因である。パラミクソウイルス(麻疹,犬ジステンパーウイルス)およびリッサウイルス(狂犬病ウイルス,duvengageウイルス)が宿主免疫系不活化をおこなうために使用しているV蛋白質,P蛋白質およびドメインを調製した。また,ターゲットとなる人STAT1分子,STAT2分子の全長および,coreドメイン,N末端/C末端ドメイン欠損コンストラクトも調製した。これらの高品質標品が調製できたことから,構造学的実験・相互作用解析実験ができるようになった。狂犬病ウイルスP蛋白質C末端ドメインは,STAT1との相互作用領域をNMR交差飽和法によってによって同定した。細胞生物学実験の結果と合わせて,Cell Reports誌に発表した。duvengageウイルスC末端ドメインの結晶構造を分解能2.5オングストロームで決定し,狂犬病ウイルスC末端ドメインとの構造上・相互作用の差異を調べ,論文投稿中である。狂犬病ウイルスP蛋白質C末端ドメインはまた,STAT分子が受けるリン酸化により相互作用が変化することを,学会発表している。麻疹ウイルスV蛋白質を調製し,X線小角散乱,XAFS,多角散乱解析により物性を評価するとともに,等温滴定型熱量計および表面プラズモン共鳴法を用いて,STAT分子との相互作用を精査した。V蛋白質N末端ドメインがSTAT1分子と,C末端ドメインがSTAT2分子と特異的に相互作用をおこなうことを解明した。論文投稿中である。特に,V蛋白質が存在するとIRF9-STAT2分子の相互作用が阻害され,ISGF3複合体形成が阻害されることを解明したことが,大きなハイライトであり,分子レベルで宿主免疫系の阻害機構を説明できるようになった。
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