研究課題/領域番号 |
17K07298
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小柴 生造 東北大学, 未来型医療創成センター, 教授 (70332301)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | In-Cell NMR / 19F-NMR / 動的構造 / Keap1 / クライオ電子顕微鏡 / PAH |
研究実績の概要 |
本研究では、申請者がこれまで開発してきた各種19F標識技術、In-Cell NMR法、および常磁性効果による構造解析法を組み合わせて、細胞内におけるタンパク質の様々な分子認識機構を解析し、本来タンパク質が機能しているin vivo環境下での動的構造変化を解明することを目的とする。本研究の令和3年度の成果は以下の通りである。 昨年度までに実施した、酸化ストレス応答タンパク質Keap1と基質である転写因子Nrf2の相互作用の解析の成果は論文として公開された(Commun. Biol. 4,576, 2021)。一方、Keap1のもう一つの基質である各種親電子性物質(化合物)とKeap1の相互作用について、引き続き各種NMR法を用いて詳細な解析を実施した。 さらに令和3年に東北大学に新たに導入された最新鋭の300kVクライオ電子顕微鏡を活用して、Keap1とNrf2の複合体の立体構造解析を実施し、従来と比較して大きく分解能が向上した構造を得ることに成功した。今後は引き続き解析を進めて複合体の構造の詳細を解明すると共に、In-Cell NMR法と組み合わせることでKeap1の様々な分子認識による構造変化を明らかにする。 一方、令和2年度に引き続きドメイン間の構造変化の解析のために、マルチドメインタンパク質である各種代謝酵素(PAH,ASPG等)についても解析を進めている。特にPAHに関してはクライオ電子顕微鏡による解析を実施し、こちらも従来と比較して大きく分解能が向上した構造を得ることに成功した。今後は最終的な目標である細胞内環境下における分子認識機構の解析法の確立に向けて、これまで解析したKeap1等のタンパク質について細胞内に高効率に導入し、ドメイン間の構造変化を各種19F-NMR法や常磁性効果を組み合わせることにより解析を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、申請者がこれまで開発してきた各種19F標識技術、In-Cell NMR法、および常磁性効果による構造解析法を組み合わせて、細胞内におけるタンパク質の様々な分子認識機構を解析し、本来タンパク質が機能しているin vivo環境下での動的構造変化を解明することを目的とする。 現在までの状況では、各種マルチドメインタンパク質についてin vitroで分子認識や動的構造変化のNMR解析を行い、その詳細なメカニズムを明らかにしてきた。しかし昨今のコロナ禍にともなう研究遅延に伴い、細胞内環境における標識タンパク質の測定条件の最適化に時間がかかっており、細胞内環境下での解析が遅れている。 一方、令和3年に最新鋭のクライオ電子顕微鏡が当大学に導入され、本装置を用いてターゲットとしている各種タンパク質の構造解析が大きく進展した。 今後は、NMR法とクライオ電子顕微鏡法を組み合わせて解析を行うことで、マルチドメインタンパク質のin vitroでの詳細な解析を加速するとともに、最終的にin vivo環境下での動的構造変化の解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
これまで解析した各種タンパク質を細胞内に導入し、19F-NMR計測技術を中心に適宜最新の計測技術を組み合わせることで細胞内での解析を進める。導入に際しては様々な方法を検討するとともに細胞の種類についてもさらに検討を進め効率的な導入を目指す。 一方、新たに当大学に導入されたクライオ電子顕微鏡法を最大限活用し、結晶条件では見られなかったマルチコンフォメーションの状態にあるタンパク質のin vitroでの詳細な解析をすすめることで、細胞内環境下により近い条件でのタンパク質の振る舞いを明らかにする。そしてIn-Cell NMR法と組み合わせることで、最終的にin vivo環境下での動的構造変化を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では基質認識に伴う高次構造変化の解析や細胞内環境下における構造変化の解析を行うため、これまでに各種タンパク質について基質認識に伴う構造変化について解析を進めてきた。しかし令和2年から始まったコロナ禍の影響や、解析方法や実験条件の最適化の再検討等の事情により研究が遅延した結果、細胞内におけるタンパク質の動的構造の解析に時間がかかっており、次年度に解析の一部を繰り越す必要が生じたため、次年度使用額が発生した。
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