本研究では、申請者がこれまで開発してきた構造解析法を組み合わせてタンパク質の様々な分子認識機構を解析し、本来タンパク質が機能しているin vivo環境下での動的構造変化を解明することを目標とする。本研究の成果は以下の通りである。 タンパク質の様々な分子認識機構を解析するため各種19F標識技術を活用して各種タンパク質の標識に成功した。さらにストレス応答タンパク質Keap1の基質である各種親電子性物質や創薬候補化合物とKeap1との相互作用をNMR法を用いて詳細な解析を実施した。その結果、Keap1の標的タンパク質であるNrf2の2つの相互作用部位がKeap1二量体とそれぞれ異なる結合強度で結合し、さらに相互作用を阻害する化合物等を加えるとNrf2の結合が徐々に外れること、その過程で片方の結合部位が外れた状態で存在する中間状態が存在することを明らかにした。また各種親電子性物質がKeap1とNrf2の相互作用に与える影響についても明らかにした。以上の成果を2021年にCommunications Biologyで発表した。 一方、新たに導入された300kVクライオ電子顕微鏡を活用してKeap1とNrf2の複合体の構造解析を実施し、基質の結合に伴うKeap1の構造変化について明らかにしつつある。今後はこれらの成果をIn-Cell NMR法のデータと組み合わせて、Keap1の基質結合にともなう構造変化と機能発現のメカニズムについてさらに解析を進めていく。 また、各種代謝酵素における構造機能相関についても解析を進めた。特にフェニルアラニンを代謝するPAHに関しては野生型で高分解能な構造を得ることに成功するとともに、ヒトゲノム解析で同定された各種変異体についても構造解析に成功し、さらに活性測定などを実施することで変異に伴うPAHの機能変化のメカニズムを解析した。
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