研究課題
腎糸球体の上皮細胞で発見されたI型膜貫通タンパク質ポドカリキシン(PODXL)は、乳がん、前立腺がん、大腸がん、膵がん、精巣腫瘍、卵巣がん、脳腫瘍などにおいて高発現しており、悪性度や予後不良のマーカーである。一方、全身の血管内皮細胞などの正常組織にも比較的高発現しているため、抗体医薬の標的としては不適切とされていた。本研究の背景として、研究代表者らが開発したCasMab法を用い、PODXLに対し腫瘍特異的な反応性を示す抗体を取得した。本研究においては、これらの抗体を利用して、腫瘍型PODXLの実態を解明し、さらに腫瘍型PODXLのがん細胞形質への関与を解析すること、また、腫瘍型PODXL認識抗体の抗体医薬開発の可能性を検証することを目的とした。本年度は、瘍型糖鎖構造付加部位決定実験と腫瘍型糖鎖付加PODXL分子の大量精製を遂行した。腫瘍型糖鎖構造付加を解明するため、まずは目的の糖鎖付加部位を特定する実験を行った。N末端側もしくはC末端側から削り込んだdeletion型PODXL分子を腫瘍細胞株に強制発現し、腫瘍型PODXL抗体の反応性からPODXL分子のどの領域に糖鎖構造が付加されているかを解析した。また、代表者らがTalenを用いて作成したN結合型糖鎖不全細胞株に、最小単位のPODXL分子を大量発現するための発現細胞樹立に取り組んだ。さらに腫瘍型糖鎖構造の生合成に関与する糖転移酵素遺伝子群の特定に取り組んだ。方法は、腫瘍細胞株を用い、腫瘍型PODXL抗体の反応性プロファイルを調べた。抗体反応性プロファイルと遺伝子発現プロファイル、両方の結果を比較検討して抗体の認識する腫瘍型糖鎖構造付加に関与する糖転移酵素遺伝子候補を調べた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、(1)瘍型糖鎖構造付加部位決定実験と(2)腫瘍型糖鎖付加PODXL分子の大量精製を遂行した。(3)さらに腫瘍型糖鎖構造の生合成に関与する糖転移酵素遺伝子群の特定に取り組んだ。(1)については、N末端側もしくはC末端側から削り込んだdeletion型PODXL分子を腫瘍細胞株に強制発現株の樹立を実施し、出来上がった強制発現株の腫瘍型PODXL抗体の反応性からPODXL分子のどの領域に糖鎖構造が付加されているかを解析した。(2)については、糖鎖構造決定のためには高分子量の糖鎖がついていない方が望ましいので、申請者らがTalenを用いて作成したN結合型糖鎖不全細胞株に、最小単位のPODXL分子を大量発現するための発現細胞樹立に取り組んだ。(3)については、種々の腫瘍細胞株を用い、腫瘍型PODXL抗体の反応性プロファイルを調べた。申請者がこれまでの研究で蓄積してきた腫瘍細胞株に対する糖転移酵素関連遺伝子発現プロファイル結果と、新規細胞株については、糖転移酵素関連遺伝子発現プロファイル作成を実施して、遺伝子発現プロファイルを作成。抗体反応性プロファイルとの比較により、抗体の認識する腫瘍型糖鎖構造付加に関与する糖転移酵素遺伝子候補が見出された。
当初の計画通り、候補遺伝子のノックアウトまたはノックダウン細胞作製による抗体反応性の消失、または、プロファイルの比較結果から推定された糖鎖構造を持たない細胞株に候補遺伝子を単数または複数導入する強制発現細胞で抗体反応性が出現する、などの細胞工学的実験により腫瘍型糖鎖構造を解明する。また、PODXL発現糖転移酵素遺伝子ノックアウト細胞株やPODXLノックアウト細胞株などを用い、対象とした糖鎖構造改変型PODXL分子の種々のがんの機能的関与(多分化能・自己複製能や浸潤能・運動能など)の解析を行う。
平成29年度は概ね計画通りに研究を遂行でき、予定していた予算は順調に使用した。残額が少なく、効果的に必要試薬を購入できないため、来年度に持ち越すことにした。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Monoclon Antib Immunodiagn Immunother.
巻: 36(2) ページ: 50-56
doi: 10.1089/mab.2017.0008.
巻: 36(4) ページ: 157-162
doi: 10.1089/mab.2017.0020.