研究実績の概要 |
癌・幹細胞増殖性維持に関わるRNA結合タンパク質Musashi1 (Msi1)が標的RNA配列を認識する機構について研究を行い 、3つの論文として報告した。 Msi1は2つのRNA結合ドメイン(RBD)を有する。N端側RBD(RBD1)については、以前、標的RNA配列(GUAGU)との複合体の溶液構造をNMRにより解明し、RBD1はGUAG部分を特異的に認識することを明らかにしていた。今年度は更に、分子動力学計算法及び、水和の統計熱力学理論を用いた解析を行い、結合に関する種々の熱力学パラメータを得た。そして、RBD1が標的RNA配列を高い特異性で認識するための原動力に関する新たな知見を得た(Phys Chem Chem Phys, 2018)。原動力は、基本的には、RBD1とRNAの形がピッタリ合うことにより水の並進エントロピーが得をするということ、それからRBD1の正電荷と核酸の負電荷が相補することにより、脱水和エネルギーの損失が保障されるということである。 また今回、C端側RBD(RBD2)についても、単独及びRNAとの複合体のNMR構造を決定した。これにより、RBD2がUAGを特異的に認識することが明らかとなった(Molecules, 2017)。更に、Msi1 RBD1-RBD2と最短標的RNA配列(UAGGUAG)との結合様式について複合体モデリングによる解析を行った。その結果、Msi1は翻訳制御するべき遺伝子のmRNA中に含まれる(UAGnGUAG), n=0-50に立体障害なく結合出来ることが強く示唆された(Molecules, 2017)。他方、RBD2について、単独及び複合体における化学シフト値を報告した(Biomol NMR Assign, 2017)。以上の化学シフト及び構造の情報は、Msi1を標的とする抗癌剤開発に利用することが出来る。 以上の様に、今年度は主に原子レベル分解能のミクロな視点の知見を得た。これらの情報は、RNAと複数のタンパク質の結合を見るという、次年度以降のマクロな視点の解析にそのまま活用することが出来る
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