研究課題
癌・幹細胞増殖性維持に関わる翻訳調節因子Musashi1 タンパク質(Msi1)は、N端領域に2つのRNA結合ドメイン(RBD)、RBD1及びRBD2を有する。これまでに、このRBD1-RBD2領域がRNA配列UAGXnGUAG (X=U/A/C/G, n=0-50)を特異的に認識・結合することを見出した。本研究では、この認識・結合を立体構造及び分子運動の観点から明らかにすることを目的としている。今年度は、まず、N及びC末端を確定したRBD1-RBD2コンストラクト(Msi1 RBD1-2)の大量調製方法を検討し、NMR構造解析に適した試料の供給方法を確立した。また、上記RNA配列のうち、n=1のUAGXGUAGを少なくとも1つ含むnumb-15等の遺伝子由来のRNA配列及びn=0のRNA配列をベースとして、新たにn=2-6のRNA配列を系統的に作製した。これら合計21種類のRNA配列について、ゲルシフトアッセイ及び蛍光偏光解消法によりMsi1 RBD1-2との結合を解析し、結合プロファイルが好ましいRNA配列を数種類選別した。そして、安定同位体15N標識化したMsi1 RBD1-2に対して、選別したRNA配列を各々滴定するケミカルシフトパーターベーション実験(CSP)を実施した。これらの結合はいずれもNMR化学シフトの時間スケールでゆっくりとした交換に分類される、すなわち強い結合であることがわかった。また複合体のNMRスペクトルを確認したところ、NMR立体構造解析に適した複合体であることがわかった。目下、結合部位の同定を行っているところである。一方、複合体のNMR立体構造解析に向けた準備として、NMRパルスシーケンス及び実験パラメータの整備、データプロセッシング、スペクトル解析、及び立体構造解析などの整備も行った。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の成果を発展させ、NMR立体構造解析に適したMsi1 RBD1-2の大量調製方法を確立するとともに、合計21種類のRNA配列の中から複合体形成に適した結合プロファイルをもつRNA配列を数種類得た。実際にNMR測定、特にCSPを実施し、得られた複合体のスペクトルを確認したところ、NMR立体構造解析に適した複合体であることがわかった。目下、結合部位の同定を行っているところである。さらに、複合体のNMR立体構造解析に向けた準備も順調に進んでおり、NMRパルスシーケンス及び実験パラメータの整備、データプロセッシング、スペクトル解析、及び立体構造解析などの整備も行った。高速AFMの測定に関しては、試料調製の検討を引き続き行っている。また今年度は、Msi1とは異なるRNA結合タンパク質で、RNAの結合に際して構造変化を起こすものについて、形状の分布を解析する技術的ノウハウを得た。
今年度確立した方法で13C,15N二重標識化Msi1 RBD1-2を大量調製する。そして、今年度得た結合プロファイルの好ましいRNA配列を用いて複合体とする。得られた複合体について、今年度整備したNMRパルスシーケンス及び実験パラメータ、データプロセッシング、スペクトル解析、及び立体構造解析の各方法を適用し、複合体のNMR立体構造決定を行う。また、高速AFM観察を実施する。
Msi1による標的RNAの結合機構をNMRとAFMにより解析するため、長さ、配列の異なるRNAオリゴを設計・合成し、まずはEMSA及び蛍光異方性により結合の特徴を定性・定量的に比較検討して来た結果、先の解析に供するべきRNAオリゴが複数種類得られた。これらを用いてNMRとAFMにより詳細な解析を行うため、期間を延長する必要が生じた。得られた成果を生体分子NMR国際学会で報告する予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (34件) (うち国際学会 10件、 招待講演 1件)
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