研究課題/領域番号 |
17K07308
|
研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
八木 寿梓 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (10432494)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | アミロイド線維 / 海藻 / 蛋白質異常凝集検出装置 |
研究実績の概要 |
加齢性に伴い発症する疾患の多くにタンパク質の異常凝集は関与しており、不溶性の凝集形態でも病態が変わると示唆され、混沌としている。超高齢化社会を迎えた日本において認知症は国民病の一つとされている。アルツハイマー病を含む神経変性疾患もタンパク質の異常凝集形成(アミロイド線維)が深くその発症機序に関与していることから、治療・予防方法の開発は急務である。アミロイド線維形成が原因とされる疾患群をアミロイドーシスと呼び、神経変性疾患に加え、II型糖尿病等を含む生活習慣病も含まれることから若年層においてもタンパク質の異常凝集に気をつけなければならない。いかにこのようなタンパク質の異常凝集形成を阻害するかが、予防医学の観点から求められている。本申請課題は、そのタンパク質の異常凝集形成を抑制・阻害することが疾患の発症予防につながると考え、その阻害方法として日本に存在する海藻に着目し、その作用機序の詳細を調べている。平成30年度は、初年度に得られた数種類の海藻を中心に展開した。また、すでに試験管内反応においてアミロイド線維形成阻害効果が得られている海藻成分に関しては、先行して細胞を用いた毒性評価を進めている。具体的な成果として、非食用の海藻を用いた凝集阻害評価に関しては、水系と有機溶媒の二つの抽出方法を検討し、それぞれ様子が異なる抽出物を得ることに成功した。さらに、非食用の海藻抽出物はどちらの抽出方法でも線維形成を阻害することがわかった。しかしながら、抽出時間、抽出量等に関しては大きな差があり、水系の抽出方法が有用であることがわかった。一部の地域で食用として使われている海藻に関しては、抽出方法を再検討し、従来より阻害効果を有する最適な条件を決定した。海藻成分を用いた細胞毒性評価に関しては、現在進行中ではあるが、海藻成分を含んだタンパク質試料では、毒性が軽減される傾向が見られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、初年度で得られた非食用と一部の地域で食されている海藻に焦点をあて、さらなる詳細な知見を得ること、さらにすでに線維形成阻害効果がわかっている海藻成分の毒性評価を当該研究計画とした。実施結果から、非食用の海藻に関しては水系の抽出方法と有機溶媒を用いた抽出方法を行い、線維形成阻害効果について検証した。その結果、両抽出方法でも線維形成を阻害することがわかった。また、一般的に水系と有機溶媒を用いた抽出方法ではこれまで得られた知見と過去の文献から主成分は異なることから、海藻には複数の阻害成分を含んでいることがわかった。さらなる詳細な成分解析が必要となる。一部の地域で食用となっている海藻に関しては、水系の抽出方法で凝集阻害効果を評価してきたが、より効果的な阻害効果を期待して抽出温度・時間を再検討し、凝集阻害効果の評価を行った。さらに、今後の社会実装に向け、抽出工程を見直して海藻抽出物の大量調製を可能とする方法に変更した。その結果、これまでよりも阻害効果がある最適条件を決定した。すでに阻害効果が得られている海藻成分に関しては、年度計画通りに細胞毒性評価に移行した。海藻成分のみでは細胞に対する毒性が無いことを確認し、また、アミロイド線維のみでは細胞生存率が40%程度まで下がり毒性を有することを確認した。海藻成分を含んだタンパク質試料を細胞に添加すると、線維のみの毒性と比較して、毒性が軽減される傾向が見られた。試料の条件等をさらに検討し、より詳細な評価を引き続き行っていく。年度計画では、当該年度の計画であった阻害機構の解明の中で成分解析、最終年度に大量調製方法の検討を計画していたが、順番が前後した。しかしながら、研究の方向性はずれておらず年度計画通りに進んでいることから、概ね研究が進んでいると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、非食用の海藻からは、水系および有機溶媒からそれぞれ抽出した成分がアミロイド線維形成阻害を有するという成果が得られた。また、一部の地域で食されている海藻からは、水系の抽出温度・時間、さらには抽出工程を再検討することより、初年度よりも線維形成阻害に対して効果がある抽出液の調製に成功した。これらにおいて、重要なことは、抽出方法の違いによってどの成分が変化したかを調べる必要がある。当該年度計画には、阻害機構の解明の中に成分解析を行う計画であったが、従来の条件で成分解析を行うより、最適な抽出条件を決定した後に成分解析を行う方が効率的と判断し、年度計画の一部を前倒しして行った。所属研究室の設備では、ポリフェノール含有量の解析や、分子量分布の解析等は可能であるが、具体的な成分同定はできない。よって、他の施設の高性能液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)を使用することで最終年度に成分解析を行うことができる環境を整えた。したがって、最終年度は所属研究室内で非食用の海藻も含めて、LC条件を検討し、LC/MS解析を行い、成分の同定を試みる。また、同時に調製した抽出物を用いて細胞毒性評価も行う。海藻抽出物の調製における課題として、有機溶媒による抽出が挙げられる。一般的に用いられる有機溶媒で海藻成分の抽出を行うと、大量の海藻を必要とし、得られる収量は水系と比較してかなり少ない。また、抽出時間・有機溶媒のコストもかかり、阻害効果に有用な成分が得られたとしても研究室レベルであり、実用的ではない。しかし、有用成分の存在は事実であり、有機溶媒抽出方法を再検討し、短時間・高収量の方法の開発も目指す。現在、2種類のアミロイド線維形成タンパク質において海藻抽出物による線維形成阻害効果が得られている。本課題中に海藻成分を同定することで作用機序の解明等の次のプロジェクトにつなげる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当該年度の計画の一つで、阻害機構の解明の中の一つとして海藻成分の同定を計画していたが、最終年度に計画をしていた大量調製方法を含めた、海藻成分の抽出方法の最適化を当該年度に行った。よって、年度計画の一部が前後したことによって、予定していた費用の一部を最終年度で使用する必要が生じた。具体的にはLC/MSに使用するカラムや試薬等である。 (使用計画)海藻成分には親水性や疎水性の化合物や糖、タンパク質等が含まれる。海藻成分の同定には一つのカラムだけでは評価ができないために複数のカラムを組み合わせる必要がある。よって繰り越した研究費は当該年度に使用する予定であったLC/MS解析に必要なカラムを含めた消耗品に使用する。
|