研究課題/領域番号 |
17K07309
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
嶋田 睦 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (70391977)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 蛋白質 / エンドサイトーシス |
研究実績の概要 |
クラスリン依存性エンドサイトーシスは真核生物が細胞内に物質を取り込む仕組みであり、中心となるタンパク質であるクラスリンが細胞膜上で格子状に重合するクラスリン重合過程から開始される。クラスリン重合を担うタンパク質には、クラスリン格子の形成初期に機能するタンパク質、重合中のクラスリン格子の中央部あるいは辺縁部で機能するタンパク質などが存在し、複雑なネットワークを形成してこの過程を進行させる。本研究は構造生物学的手法と相互作用解析手法を組み合わせて、クラスリン重合過程の進行を担う鍵となる分子であるEps15やAP-2複合体等の分子の相互作用の構造的基盤を確立し、クラスリン重合進行機構の一端を原子分解能レベルで解明することを目的とする。 これまでにAP-2複合体のα-adaptin appendageドメイン (α-appendageドメイン) とEps15の約60 残基の領域の複合体の結晶構造解析を進め、PDB登録を行った。Eps15には同じ配列が繰り返されている領域がある。結晶構造中、ほぼその繰り返し配列のみを含む1カ所の領域については複数の構造生物学的手法で検討したが、2つの繰り返し配列のうちどちらに対応する電子密度か特定できなかった。しかし等温滴定熱測定を用いた変異体解析により、これらの2つの領域がどちらもα-appendageドメインの同じ部位に同程度の寄与で結合することが示唆され、これ以上の検討の必要性が低くなった。そのためここで一旦構造解析を完了することにした。その他の変異体解析の結果は結晶構造と概ね一致しており、個々の相互作用部位の結合への寄与の程度も解明した。以上の結果と過去の文献に基づき、クラスリン重合に伴いEps15がクラスリン格子の辺縁部に局在し、そこでクラスリン重合を促進する機構についての新規モデルを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにAP-2複合体のα-appendageドメインとEps15の約60 残基の領域の複合体の結晶構造解析を完了し、PDB登録を行った。Eps15には同じ配列が繰り返されている領域があり、結晶構造中ほぼその繰り返し配列だけを含むような1カ所の領域の電子密度については、複数の構造生物学的手法で検討を行ったが、2カ所のうちどちらの繰り返し領域に対応するか特定できなかった。しかし構造解析と並行して行った等温滴定熱測定を用いた変異体解析により、候補となる2つの繰り返し配列はどちらもα-appendageドメインの同じ結合部位に同程度の寄与で結合することが示唆された。そのため構造解析を完了することにしてPDB登録を行った。その他の変異体解析の結果は概ね結晶構造解析によって判明した相互作用部位が実際に結合に寄与していることを支持していた。またそれぞれの相互作用部位の結合への寄与の程度も解明した。以上の構造機能解析の結果を過去の文献の結果と比較し、クラスリン重合に伴いEps15がクラスリン格子の中央部のAP-2複合体から解離し、クラスリン格子の辺縁部に移動し、辺縁部でさらにクラスリン重合を促進する機構についてのモデルを構築した (論文投稿準備中)。このようにこれまでに初年度に予定していた研究計画の大部分を完了し、次年度以降に予定していたクラスリン重合におけるこれらのタンパク質の役割についてのモデル構築および論文投稿準備を大幅に進めた。そのため達成度を概ね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まずクラスリン重合におけるEps15とα-appendageドメインの相対配置、ひいてはEps15とAP-2複合体の相対配置を高速原子間力顕微鏡と電子顕微鏡等により決定する。既に高速原子間力顕微鏡によりEps15全長タンパク質が特徴的なダンベル型の四量体を形成し、溶液中で活発に動く様子を捉えることに成功している (未発表)。しかしEps15四量体は純度を上げることが困難で、分解産物が含まれるため、観察しているダンベル型の構造が分解産物を含む可能性も否定できない。そのため発現精製条件の検討を行い、より高純度の試料の調製を試みる。調製したEps15全長にα-appendageドメインを結合させ、Eps15四量体上のα-appendageドメインの相対配置を解明する。Eps15四量体の特徴的な形状から四量体の同定は比較的容易であることが期待され、不純物がある程度含まれていても相対配置の解明は可能だと期待できるが、Eps15に結合するFCHo1やSGIP1などのタンパク質のμ homology ドメインや、FCHo1、SGIP1全長等も相対配置決定のための目印として用いるなど工夫する。 また電子顕微鏡による観察では既にEps15全長タンパク質の負染色像を得ているが、Eps15の大きさが電子顕微鏡観察に向く十分大きなサイズではなく、また四量体がそれほど固い構造を取っておらず像が不均一であるという問題や上記の試料の純度の問題がある。そのため、より純度の高い試料を用い、α-appendageドメインに金ナノ粒子を目印として結合させる等の工夫を行い解析する。 これらの結果を踏まえた上で必要に応じてさらにα-appendageドメインやEps15の変異体解析等を行い、構築したクラスリン重合モデルのより詳細な検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、次年度以降に予定していたクラスリン重合モデルの構築、論文投稿準備まで、一部予定以上に研究が進んだため、平成29年度中の論文投稿の可能性が生じ、比較的高額の論文掲載料を確保する必要性が生じた。そのため年度の途中で予算計画を変更したが、結果的に投稿が次年度以降にずれ込んだことで、次年度使用額が生じた。さらに研究の進展に伴い実験の優先順位が変化し、想定よりも消耗品の必要量が少なくなったこと、また研究の進展を優先したため当初の予定より学会発表のための旅費の使用が少なかったことも次年度使用額が生じたことにつながった。繰り越す次年度使用額は、主に論文掲載料、学会発表用の旅費として、また消耗品費として使用することを予定している。
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