研究課題
ペルオキシソームは極長鎖脂肪酸のβ酸化や過酸化酸素の分解等多くの重要な代謝経路を有する細胞内小器官であり、その代謝機能を担うタンパク質(酵素)の多くはペルオキシソーム内部(マトリクス)に局在している。ペルオキシソーム形成因子の一つであるPex14pは、ペルオキシソーム局在性マトリクスタンパク質の輸送において中心的分子として機能する。我々は、動物培養細胞においてPex14pがリン酸化修飾を受け、マトリクスタンパク質輸送を調節することを示唆する結果を得ていた。本申請課題では、環境変化に応答した細胞内シグナル伝達およびPex14pリン酸化修飾によるペルオキシソーム機能の制御機構の解明を目指すものである。H29年度はリン酸化の有無がどのようにしてPex14pの機能に関与するのかについて解析を行った。種々の実験の結果、ペルオキシソーム膜上のマトリクスタンパク質輸送装置複合体とPex14pとの結合にPex14pリン酸化が関与しており、マトリクスタンパク質輸送装置複合体の機能を制御する可能性が示唆された。また、Pex14pリン酸化に関与する細胞内シグナル伝達経路の探索について、幾つかのキナーゼ阻害剤の存在下でPex14pのリン酸化が減弱化することを見出し、詳細について解析している。また関連する成果として、ペルオキシソーム局在性Mitochondrial Rho GTPase-1(Miro1)を同定し、これまで未解明であった哺乳動物ペルオキシソームの細胞内移動の分子機構を明らかにし、国際誌Journal of Cell Biologyに発表した(Okumoto, K. et al.: J. Cell Biol. 217, 619-633 (2018))。
2: おおむね順調に進展している
種々のリン酸化関連Pex14p変異体、およびそれらをPEX14欠損性CHO変異細胞に発現させた安定発現株を用いて、ペルオキシソームマトリクスタンパク質輸送におけるPex14pリン酸化修飾の機能およびその作用機序が明らかになりつつある。これまでに酵母においてPex14pのリン酸化は観察されているもののその機能は不明なままであり、これまでに得られた成果は新規かつ重要な知見である。また、キナーゼ阻害剤を用いたPex14pリン酸化修飾の上流シグナル伝達経路解析も進んでいる。
平成29年度に引き続き、Pex14p変異体を用いたペルオキシソームタンパク質の輸送制御の解明を進めるとともに、Pex14pリン酸化によるペルオキシソーム機能の制御機構を明らかにする。さらにPex14pリン酸化の生理的意義の解明を進める。恒常的リン酸化型Pex14p変異体の安定発現によりペルオキシソームマトリクスタンパク質の輸送が抑制され、結果として過酸化水素分解酵素であるカタラーゼのサイトゾル局在化が亢進することを見出しつつある。最近申請者らは、別経路を介した酸化ストレス依存的な過酸化水素分解酵素カタラーゼのペルオキシソームからサイトゾルへの局在変化も明らかにした。従って、Pex14pのリン酸化が酸化ストレス応答の一つとして機能することが推測されることから、抗アポトーシス能等におけるPex14pのリン酸化の生理的意義について明らかにする。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
J. Cell Biol.
巻: 217 ページ: 619-633
10.1083/jcb.201708122
In: Schrader, M. (ed.) Peroxisomes: Methods and Protocols, Methods in Molecular Biology (Series Ed.: Walker, J.M.), Springer, Humana Press, New York, USA
巻: 1595 ページ: 197-205
10.1007/978-1-4939-6937-1_18
巻: 1595 ページ: 213-219
10.1007/978-1-4939-6937-1_20
巻: 1595 ページ: 319-327
10.1007/978-1-4939-6937-1_29
実験医学2017年7月号特集「ユビキチン化を介したオルガネロファジー」
巻: 35 ページ: 1824-1831
http://www.biology.kyushu-u.ac.jp/~taisha/ikelab/